「イニシャルはIがいいです」
「I?」
「『私』と」
「……そうね、そうなさい」
イザベラは頭がいい。みなまで問わずに理解してくれる。
でも本当は違う。自分のものとして残すなら、イザベラ、その名前を刻もうと思った。
「インクはご主人様が選んで」
セシリオには聞こえない声で言う。
「なに色が一番綺麗に見えるかご存知でしょう?」
「わかったわ」
イザベラはセシリオの横へ並んでインク壺を選び出した。
荷物を包んで馬車へ届けてもらうことにして、百科物屋を後にした。
次は本屋へ向かうのだ。百科物屋の店主から、本屋に新しい本が入ったと聞かされたからだ。本屋が屋敷に来るのは一週間ほど先で、それがイザベラには待てないらしかった。