「気に入ったのなら買ってあげましょう」

 突然背中から声がかかって驚いた。イザベラだった。いつになくごきげんだ。

「いや、字が書けないのでいりません」

 ペンなど買っても綴りが書けない。記号としての字はわかるが、文を綴ることはできない。わかるのは一般的な名前くらいだ。
 書けたとしても、手紙を書く相手なんかいない。

「だったら教えてあげるわ。ノートも買いましょう。字が書けないなら、絵でもいいわ。使わなくたっていいのよ。美しいでしょう?」

 初めて向けられた笑顔に、ドギマギと心臓が早鐘を打った。頭が上手く回らない。スマートなセリフ、女が喜ぶ返し方、そんな考えなくても口先からスラスラ出て来たのに、今は唇が震えるだけだ。