奴隷なのだ。危ない橋がないこともない。殴るのや、いたぶることが好きな主人もいる。逆に、殴られたり、いたぶられたりするのが好きな主人もいるが、そういうのは黙って殴ってやればいい。
「でもまぁ、死んで惜しがる命でも無し、行くだけ行ってみるさ」
「だったら、待ってるぜ」
「もう?」
「ああ」
ドアを開けば、燕尾服姿の老紳士が立っていた。片目の眼鏡が光る。老紳士は、店の主人に布で包んだ塊を渡した。きっと五百万だ。
思わずゴクリとツバを飲み込む。
店の主人はヘコヘコと頭を下げて、南京錠の鍵を老紳士に渡した。これで契約成立という意味だ。店の主人は、そそくさと去っていった。
コイツがオレを買ったのか。今までは女ばかりを相手していたが、そういうことか、納得もいく。
嫌なら五百万を手に入れてから、嫌われるように仕向けるか、隙を見てトンズラこけばいい。そう思った。
「こちらへ」
低く清んだ声は、嫌悪でオレを突き刺してくるようだ。少なくとも、オレが欲しくて手に入れたというような、こびるような声ではないから薄ら寒い。
オレは黙って愛想笑いを振りまいて、店の裏に付けられた馬車に乗り込んだ。黒い馬車はシンプルだが上質だ。家紋の装飾などはない。