「そもそも地味なものがお好みのようですが。お嬢様のお兄様、……前の伯爵ご夫妻が亡くなられてから、黒しかお召しにならないのです」
「それっていつ?」
「昨年のお嬢様の誕生日です。それからお嬢様はお坊っちゃまの後見人として リッツォ伯爵家の女主人になったのですわ」
難儀な女だと思った。一年も喪に服せば十分ではないか。
勝手にイザベラのクローゼットを確認すれば、黒いドレスと黒いワンピース、その間にイザベラ色の地味なワンピースが挟まっている。きっとそれは、以前に着ていたものなのだろう。
宝飾品は母親から譲り受けたのか、それ相応に豪華な物なのに、合わせるドレスが用意されていなかった。
どういうことだ?
社交界に出ていなかったのだろうか。それにしても、喪に服して一年だ。いい加減、伯爵家の女主人として顔を出さねばならない場所だってあるだろう。