こうやって始まった新しい家の日々。オレはイザベラを見かけるたびに、甘い言葉で口説きまくった。綺麗に飾り立て、何人ものご令嬢を魅了してきた笑顔を作り、女の喜ぶ言葉を並べて尽くす。それなのにイザベラは、頑として聞き入れない。一瞬たりとも、心を動かしたりしないのだ。それどころか、冷たい目線で突き放す。こんなこと今までにはなかった。

 もうひとつ、今までなかったこと。イザベラの屋敷では、オレの食事は使用人たちと一緒なのだ。今までの屋敷ではご主人様と一緒に取ることが多く、他の使用人と話すこともなかったから、それも新鮮だった。他の屋敷ではオレは嫌われ者だったのだ。奴隷という一番身分が低い癖に、一番待遇が良い使用人。嫉妬され、恨まれることが多かった。
 しかしこの屋敷では違う。オレは他の使用人と同じ扱いなのだ。そのうえ、オレがこの屋敷にいるということは、すなわちご主人様とイタしてないわけで、ちょっと不憫そうな生暖かい目で見られているが、そのおかげか皆親切だ。性奴隷として機能しない性奴隷、すなわち無能ものと言うわけで屈辱的ではあるが、若干応援されてすらいる。
 ちなみに、セバスチャンと呼ばれた老紳士は、この屋敷の執事らしかった。