「あの子を独りにはできないのよ。この家を失くすわけにはいかないわ。それには私がこの家を守らなくてはいけないのに、賢者の印が現れたらここにはいられない。時間がないのよ! 性奴隷にすら無理だと言われる女を、他の誰が交合ってくれるの?」
「焦らないでよ。ご主人様」
声をかける。年上なのにまるで幼子のようだ。守ってあげたくなってしまう。
イザベラは顔を上げた。瞳が涙で潤んでいる。
「『まだ幼い』といいました。もう少し時間をかけましょう?」
「時間がないのよ」
「一年あります」
「一年しかないわ」
「大丈夫です。オレが貴女を大人にします」
「……ジャンが?」
「ええ、オレが」
そう答えれば、イザベラは可笑しそうに笑った。
「馬鹿なことを」
「まずは、ご主人様、手を」
そう言えばイザベラは疑いもせずに、オレに右手を差し出した。
疑うことを知らない綺麗な心。