「おい、行き先決まったぞ」

 店の主人が下卑た顔でオレに笑いかけた。オレもそれに笑って答える。

「へぇ? 昨日、顔見に来たマダム? それともおとといのご令嬢?」

 お客は、未亡人はもちろんだが、未婚で処女の令嬢もいる。
 
 この国では、二十五歳までに異性と交わらなければ、手の甲に賢者の印が浮き出てくるのだ。と同時に、一般人の持たない不思議な力を手にいれることができる。
 癒しの能力だったり、ずば抜けた記憶力だったり。性格的にも達観し、穏やかになってゆく。彼らは、賢者・聖女と呼ばれ、宮廷や学校、教会や病院などで、教育や政治、治癒などにまつわる仕事に就くのが常識だ。それは高貴で尊敬を集める職業でもあった。

 だからこそ、その仕事に憧れるものも多く、あえて禁欲をし、その力を手に入れるものも多い。ただし、手の甲に賢者の印を持つものは、俗世とは縁を切り、家族をもてないことが決まりとなっていた。

 逆に言えば、二十五までに交わらなくては賢者の印が出てしまうから、結婚相手が決まっていない跡継ぎのご子息ご令嬢などは、正式な結婚前に奴隷で交わりを済ますことも多いのだ。
 賢者の印が出てしまっては、家を継ぐことができない。
 変な相手を選んで、お家乗っ取りだとか、風評被害にあうよりは、自分の家で購入した奴隷で済ませてしまえば心配はない。
 性奴隷は見た目が美しいし、社交界に連れて歩くのも一種のステイタスですらあるくらいだから、それを持つことは恥ではない。豪華に着飾らせて自慢するペットの一つと言うわけだ。