彼女は表情ひとつ変えずに、奥に繋がる扉を開いた。すべての壁は腰下まで本棚になっている。本棚の上には珍しいカラクリ物がたくさんだ。
 壁にはさまざまな地図。昆虫が並べられたガラスケース。水の入った大きな筒には、色とりどりのガラスの球が浮いている。その横に開かれたノートにペン。何に使っているのかわからない。
 中央に置かれた天蓋付きのベッドと、草臥れた犬のヌイグルミだけが女の子の名残に見えて、不自然に思えた。

「さあ」

 イザベラはベッドに腰かけた。昼なのに薄暗い部屋は、小さい窓しか無いからか。
 昼の情事にためらいすら見せないこの人は、きっとナニがおこるか解ってない。
 オレは何とも言えない気持ちになった。少なくとも、良い雰囲気とは程遠い。
 ゆっくりとイザベラの隣に座る。ギシリとしなったベッドに、イザベラが驚いたようにオレを見た。

 怯えさせないように慎重に、そっと頬に手を沿わす。