深い緑の壁紙には精巧に描かれた金の蔦の柄。重そうなカーテンはえんじ色。洗い立てのベッドのリネン。
テーブルには本が何冊か。一冊は聖書。よく見かける花の表紙は、有名な詩集だと聞いたことがある。もう一冊は見たことのない本。文字の読めないオレにはよくわからない。
飾られた小さな絵。小さな花瓶。大きな鏡は金色の縁取りが華やかだ。銀細工の凝った置き時計。テーブルの上の小鉢にはチョコレートが入っている。
自分の部屋。初めて用意された、一人だけの部屋。まるで客人のような扱い。
ジワジワと胸の奥が熱くなって、それと同時に苦しくなる。にやけてくる唇は嘘じゃないのに、コイツらだけが当たり前のように持っている空間に憎しみが募る。
ツンと尖ったイザベラの鼻を思い出した。へし折ってやりたい。何にも知らない世間知らずを、オレの啜ってきた世間の泥で汚したい。苦しさや辛さを知らないような、お嬢ちゃまを泣かしてやりたい。