「行くぞ、ジャン」

 セバスチャンと呼ばれた老紳士に呼びつけられ、オレは慌てて席を立った。
 無言で進む背中は悪意でささくれだっていた。よくあることで慣れている。男からみると、オレみたいなモノは認めたくないらしい。
 業務感丸出しで、屋敷の中を案内される。

「ここがお嬢様の私室だ。お前の部屋はこの上の三階に用意した」

 オレに用意された部屋は、立派な客室で驚いた。バスやトイレまでついている。
 普通はじめにあてがわれる部屋は、良くても使用人と同じ屋根裏部屋で、集団生活だ。
 まあ、だんだん時間がたてば主人の部屋に入り浸りになるのが常だけれど。

「良いのでしょうか」
「お嬢様の命令だ」

 命令なら従う。

「明日には仕立て屋が来る。他に欲しいものがあるなら言え。用意させる」

 それだけ言って、セバスチャンは出ていった。