オレはつられるように笑って、口入屋に向かった。
奴隷上がりのオレに渋い顔をする主人に、イザベラのくれた紹介状を手渡せば、ビックリするほど態度が変わった。
「なんだよ、アンタ、文字が読めるんだな? 本当に計算もできるんだな?」
「ああ、簡単なものなら」
「なーに、賢者になろうって訳じゃないんだ。丁度、いい仕事がある」
そう言って紹介されたのは、印刷屋の仕事だった。紙を運んだり、言われた活字を運んだりと単純な力仕事が主だ。オレはそこに就職がきまり、毎日をつつがなく過ごしていた。
朝早く仕事に出て、適当な弁当を作り、夕飯は安い街の居酒屋で食べる。家に戻って、イザベラから貰ったノートに、三つの言葉を書く。文字の書き方を教わったときに、イザベラが言ったのだ。気になった、心に残った言葉、何でもいい、天気でもお昼ご飯のメニューでも、何でもいいから三つの言葉を書くように、と。その習慣だけは忘れなかった。
そしてたまに手紙を書いた。出すことはないけれど、イザベラ宛に手紙を書く。紫色の文字で名前を書いて、些細なことを書いては封をして引き出しにしまった。