「ご主人様! どうしてオレを? どこかで見かけたことがあるのですか?」
何でこんな役にオレを選んだのか。どこかの社交界で見かけたのだろうか。オレを連れて歩くマダムもいたからその可能性もある。顔の良いオレは実際声をかけられることもあったし、引き抜きの打診も受けたことがある。オレに一目ぼれしたご令嬢のために、主人の命で人肌脱いたこともある。
そうやって何処かで見初めたなら、理解もできる。一目ぼれの相手に捧げたい、そういうことなら話は早い。
「いいえ。あなたの事は今日初めて拝見しました。時間がないので確実に契約を果たしてくれる者を探していただけです」
ガツリと否定される。
「断ったらどうなるんですか?」
「だったらそれで良いわよ。他の者を雇うだけだわ。どうしますか?」
イザベラは真っ直ぐな目でオレを見た。黒い瞳はオレを心に移していないことがありありとわかった。