『好きです!付き合ってください!』
夕方、ひとけのない教室で振り絞るような女の子の声。
窓の外からは流行りの音楽と歓声が聞こえる。
ドアの隙間から覗くと、夕日の差す教室の中、
震える女子とこちらに背を向ける男子が目に入った。
あの背丈…短い茶髪は
香月くん?
香月くんは何かボソボソと言うと、
女の子に一歩近づいた。
え…嘘…!
香月くんは力強く女の子を抱き寄せた。
女の子も香月くんの背中に腕を回す。
気持ちが深く暗いところへ沈んでいく感覚。
香月くんが、私じゃない女子と付き合うことになってしまった…
***
目覚ましの音で目が覚めた。
「夢…」
飛び起きて、慌てて目元に触れる。
涙は出ていなかった。
予知夢じゃない。
ひとまずほっと胸を撫で下ろすが、
すぐにモヤモヤと黒いものが身体中に拡がる。
本当に?
今回はたまたま涙が出なかっただけで、
これも予知夢だったらどうしよう…。
薄れていく記憶を繋ぎ止めるように思い出す。
力強く女の子を引き寄せた香月くんの腕ー
「うらやましい…」
予知夢じゃないにしても、十分あり得る未来だ。
香月くんにこのまま想いを告げなければ、
決して私の身には起こらない未来。
想いを告げたとしても…
私は目をつむり、ため息をついた。
「迎えにいかなきゃ。」