「そういうわけじゃ…」

「高崎にコクられたんだろ。」

「…」

「どうすんだよ。」


麻は気まずそうに俺から顔をそらした。


「香月くんに言うことじゃないし…」

「俺は言ったんだぞ。」


あー、俺子供だ。

大学生の俺だったら、「確かに、自分の気持ちも他人の気持ちも、軽々しく言うもんじゃないな。」っつって…

……

そんなこと言えるか?

あと、3年経ったらそんな聖人君子みたいなのに
俺はなれんのか?


「だって…」


コイツが、あと少しでいいから俺に気がある素振りでもすればいいのに。

そうすれば俺の中の幼い承認欲求は満たされる。


「まだ…、返事できてないよ。
香月くんが引っ張ってくから…。」

「俺がつれてかなかったらどうしてたんだよ。」

「私は…香月くんを守ることが何より大切だから。」


麻は下手な笑顔を浮かべて見せた。


今の言葉は本意だろう。
でも真意じゃない。


麻は高崎を好きなのか。
俺をどう思っているのか。

そんな心の奥底の疑問は全く解決されなかった。



「まぁいいや。帰ろうぜ。
今日はお前んちまででいいよ。怪我してんだから」

「だ、ダメだよ!
荷物おいて、ちゃんと香月くんの家まで送る!」

「はぁ…」


こんな風に言い切る麻はどんなに止めても付いてくる。
経験済み。


「わかったよ」


俺は文句を言わずまた歩き出した。


結局麻は荷物を自分の家に置き、俺の家の前まで付いてきた。

「また明日」

いつものように俺の家についてすぐ自分の家へ戻っていく麻。

いつものことなのに、無性に嫌な気持ちになる。



『私は…香月くんを守ることが何より大切だから。』

さっきの麻の言葉を思いだし、
麻の背中から視線をはずす。


予知夢のことがなかったら、きっと麻は俺に友達になろうなんて言わなかったはずだ。


「はぁ」

感じたむなしさをため息にのせて、
俺は自分の家に帰っていった。