部室棟へ続く道ーー
前を歩く東郷。
指先が震えているのは後ろから見ててもわかる。
人気のない部室棟。
確かにあそこは告白には最適…
とか、考えてる時点で俺はちょっとおかしい。
だって、前まではどんなどーでもいいやつでも
(当時名前すらおぼろげだった麻でも)
女子に呼び出されたら多少は浮かれてた。
それが、今はそんなに感情が動かない。
サッカー部の献身的なマネージャーで、
学年問わず人気の東郷に呼び出されてるのに…
「か、香月くん…っ
好きです!!付き合ってください。」
あー、やっぱりか。
いや、
いやいや。
やっぱりとか何!?何様!?
夏合宿で勘づいてたとは言え、こんな感想はさすがにあんまりだ。
「えっと…ありがとう。でも…!」
『でも』が早い!俺。
もーちょい伸ばして…ふっても好感度は高く…
「…」
「麻ちゃんが好きなんだよね?」
「は??」
「ふふ…わかってるよ。ずっと見てたから。」
「…」
「香月くんはいつも麻ちゃんのこと心配そうに見てた。
今日も…怪我したら真っ先に来て…」
「アイツが危なっかしいだけだよ」
「そうだね、そうかも。」
東郷はふっと力が抜けた笑顔を浮かべた。
「私、性格悪いから。
麻ちゃんみたいないい子にはいつまでも勝てない…」
「…」
「うらやましい。純粋で、優しい…
みんなに好かれて守られる麻ちゃんが。」
「そんないいもんじゃねぇだろ。アイツ。」
「そんなことないよ。すごいいい子だもん。」
「そう思える東郷もいい子だろ。
てか、アイツは"頭"悪い子だから。気にすんな」
「ふふっ」
「…東郷とは付き合えない。
ごめん。」
「うん…」
東郷は目を閉じて少し笑顔を浮かべた。
「話聞いてくれてありがとう。また明日ね。」
「うん、また明日。」
東郷は強いやつだ。
辛い気持ちを圧し殺して、笑顔を作れる。
麻は…
辛い気持ちが辛いなんて気づかずに、ニコニコ笑ってるやつだ。
俺が気づかないと、アイツは予知夢の重圧に押し潰されてしまいそうなほどに
弱い。
守りたい。
麻がよく言うその陳腐な言葉を
俺は今更ながら真に理解することになる。