「麻、大丈夫か?」

練習着のままだ。
急いできてくれたんだ…

「…うん。」
「とりあえず湿布と固定したよ。さすがに骨は折れてない」

「そっか。ありがとな、東郷。
やっぱ女子力の塊!」

「そんなことないって。」


「麻、更衣室から荷物持ってこい。
帰り持ってやるから。」

「え…あ、いや…っ」

東郷さんの目の前でそんな話したら…


案の定、東郷さんは私に睨みを効かせる。

でも、登下校を一緒にすることだけは
なにがなんでも譲れない。


「荷物は持てるよ!
左手は元気いっぱいだから!
か、香月くんは早く着替えてきなよっ」

「いや…「ちょっと待って。」


東郷さんは笑顔で会話を止め、
香月くんとの距離を一歩詰めた。




『私、今日香月くんに告白する。』

ズキッ…

さっきの東郷さんの言葉を思いだし、心臓が嫌な縮まり方をした。


「二人で話したいことがあるの。」

「え…」


東郷さんが笑顔を私に向けて、ハッとなった。


「あ、じゃあ私カバン持って下駄箱のとこ…いるね。
東郷さん、バイバイっ」


ズキン…
ズキン…


あー、痛い。

痛い、痛い。手、痛い。


手…


更衣室で制服に着替え、自分のカバンを持って
身を隠すように昇降口の端にしゃがみこんだ。






「うそつき。」


手なんかより、もっと痛いところがある。


心臓。
千切れそう。

嫌な汗も出てる。




あーあ。なんで今さら気づくのかな。

どんくさい。間抜け。
ホント、その通り。


本当はずっと前からわかってたのに…気づけなかった。


私ね。本当は…
これから毎日、香月くんと一緒に歩いて学校に行けるのが楽しみだったんだよ。

他の誰よりも早く、怪我した私に駆け寄ってきてくれたことが嬉しかったんだよ。


その相手は私じゃなくなるかもしれない…


私はわざと痛めた右手で握りこぶしを作って、
胸の痛みをまぎらわすように力を込めた。




香月くんを守りたい。
正義感や責任感だけじゃない。

前よりも強く、強くそう思うのは、
心の底から香月くんを失いたくないと思うから。



私、香月くんが好きだ。