「麻、そんなにピリピリしないで。
私が持っとくからさ。絶対見ないし。」
「よっちゃん…」
四谷さんは麻からメモを受けとると、
カバンの奥底にしまった。
麻は予知夢のこととなると、
人が変わったように強い姿勢を見せる。
いつもは絹豆腐みたいにヘロヘロで頼りないくせに。
下手くそな愛想笑いをする麻とか
すぐあたふたする麻をからかうのは楽しいけれど、
俺を守ろうと必死で怒ったり泣いたりする麻は
正直どうしたらいいかわからない。
怒りも、涙も、
本気すぎて
予知夢を信じなくちゃいけないような気持ちになるんだ。
「んじゃ、メモは最後のお楽しみでとっといて、カラオケなんだから歌おうぜ!」
空気が読める大連の台詞で、俺たちの間の空気は和んだ。
麻も、何もなかったみたいに俺から奪った機械で曲を検索している。
「おい、俺の検索ワード消すなよ。」
「あっ、ごめん。」
麻は素直に機械を俺に返した。
四谷さんがいれた流行りのアイドルの曲が流れ出す。
日常に戻ってきたような感覚になぜか安心した。
「お前、かなり焼けたな。」
「えっ、ホント…?」
「合宿のときは白くてまだ女っ気があったのにな。」
「っ、うるさいなぁ!」
麻は合宿から帰ってきても
サッカー部のマネージャーを続けている。
相変わらずどんくさいけれど、こいつなりに一生懸命やってるっぽいし、
よかったんじゃないかと思う。
まぁ一番期待していた
"夢中になれることができておかしな妄想にも飽きる"
っていうプランは見事外れたわけだけど。