香月くんにトングを渡すと、
みるみるうちにお肉と野菜が焼き上がった。
しかも美味しそうに。
私たちのグリルの周りには一年生が集まってきた。
「ごめんね、香月くん。
あ、変わるから東郷さんの方を手伝ってほしいな…なんて。」
「あ?」
「っ、なっ何…」
なんか香月くん機嫌悪くない…?
私が無能すぎてイライラしてるんじゃ…
「お前、今日何たくらんでんの?東郷と。」
「っは!?べ、別に何も…
何の話…?」
「ハァ…お前な、予知夢の件で自分の嘘が下手ってわかったろ。」
「何のことだし…」
「今日、妙に東郷と二人になることが多いんだけど。
んで全部きっかけはお前。」
「偶然だよ~」
「前からよく目が合うとは思ってたけど、
お前の様子からして、東郷が俺のこと好…「わー!わー!」
私は大声で無理やりその模範解答をかき消した。
「お前に協力を求めた東郷が悪かったな。」
「そ、そんな風に言わないでよ。
東郷さんは純粋にゴニョゴニョ…」
「手、止まってる。」
「あ、うん。」
私は再びうちわを小刻みに動かし、火をあおぐ。
香月くんは会話中もずっとお肉と野菜に気を配り続けていた。
「東郷さん、すごく可愛いよ。
私もあんな風にまっすぐ誰かを想ってみたい。」
「あー、お前彼氏いたこと無さそうだもんな。」
「んな!わかんないでしょ。」
「わかるよ。暇が染み付いてる。」
「失礼な…
まぁ今は香月くんを守るので手一杯だからそんな余裕ないけどね。」
「何かっこつけてんだ。」
香月くんは私の頭にチョップし、満足そうに笑った。
「まぁそういうことだから、適当な理由言って
協力すんのやめろよ。」
「うぅ…はい…」
怖いけど、東郷さんには謝るしかない…。
「あと…」
香月くんは私のお皿に焼き上がったお肉と野菜を盛って差し出した。
「ありが「困ったら俺を呼べよ。」
「え…」
香月くんはパッと私から顔をそらした。
その頬は赤く染まっているように見えて、
私の顔もみるみる熱くなる。
「大連とか高崎に迷惑かけんな。」
「…うん」
「お前ほどトロくてドジで気が利かないヤツは
いないんだから。」
「ん???」
バッと顔をあげると、香月くんは悪い笑顔を浮かべていた。
「う、うるさい!香月くんのドS!!」
いつも通りの空気にちょっぴり安心したことは黙っておく。