「七瀬さん?」
「っ……」
朝の光景が
今まで何十回と見てきたそれが
脳内にリピート再生される。
本当に…
ここは現実なのだろうか。
夢?
それとも予知夢の実現する"あの日"なんじゃ…
香月くんの背中が遠くなっていく。
もし…これが"あの日"だったら…
あの細い血の筋は
全身を覆うほどに拡がって
私は…
私は
「…づき……」
「七瀬さん??」
「っ香月くん!!!!」
その場がシーンとなったのが脳の片隅でわかった。
でもそんな意識はすぐに無意識になる。
「行かないで!止まって!!」
香月くんが怪訝な顔で振り返った。
瞬間、
私の瞳から大粒の涙が溢れた。
「な、七瀬さん!?」
「やっと…うっ、やっと振り返って…くれた…」
「何言ってんの?おい、香月!」
ペシッという音がして、私の頭に小さな痛みが走った。
「なに泣いてんだ、アホ。」
「え……」
顔を上げると、飄々とした香月くんの表情。
あれ…これって…
「自転車は…トラックは?」
「ねぇよ。アホか。」
「ない…。」
私は数秒硬直した。
「そっか…!アハハ、違ったか!
今日も夢で見たから鮮明で!
アハハ…そっか、違うのか…。」
「お前、こえぇぞ。」
「…アハハ…まだ…終わってなかったのか…」
私の目からまたポタポタと涙が落ちた。
泣いたってどうしようもないのにね。
助けられた訳じゃなかった。
その落胆と
予知夢のX DAYが今日じゃなかった嬉しさ。
変な気持ちだ。
ちょうど部長が午前の練習の終わりを告げる号令をかけたので、
香月くんは私の腕をひっぱってグラウンドから連れ出した。