「お、怒ってたんじゃないの…?
だから一人で帰るって…」
「ちげぇよ」
俺はまっすぐ自転車置き場に向かい、
自分の自転車の鍵を開ける。
「あ…でも歩いて帰るのはいいと思うよ…?」
「……」
麻はまだビクビクしながら俺に尋ねた。
もちろん却下だ。
「やだよ。」
「じ、じゃあ一緒に帰る!!」
「勝手にしろ。」
得意の予知夢では俺、マフラーしてたんだろ?
だったら別に毎日ついてこなくたっていいのに。
バカ真面目。
てかバカ。
「香月くんっ、待って。」
「トロい。」
麻は小走りで俺の隣まで自転車を押してきた。
また
風に長い髪が揺れた。
さっきの光景を思い出す。
少なくとも、こいつにとって俺は
変な妄想の時以外背中に隠れて助けを乞う存在…
そんな小さなことが俺のイライラを
驚くほど和らげていた。
「さっきは売るような真似して悪かったな。」
「へ?」
なんも気づいていない間抜け面。
「なんでもね。帰るぞ。」
「うん。」
俺は夕日の跡が伸びる道を
不思議と穏やかな気持ちで帰っていった。