「そうそう。きついのなんのって…」
「アハハ…
か、香月くん…一緒に帰ろう。」
「え、ああ…
じゃなくて、俺今日は用事あるから。」
目の前の高崎が俺にウインクで合図を送っている。
うっせーな。
わかってるっつーの。
「よ、用事…?」
「歩いて帰るから。」
「でも…」
「七瀬さん、俺が送ってあげよっか?」
「え…」
ニコニコ話しかける高崎に麻は困ったような
声を出した。
きっといつも以上に眉を下げて、
顔も困ってることだろう。
俺は麻が後ろにいるのをいいことに、
気づかないふりをし続けた。
「香月くん…昼ひどいこと言ってごめんね。」
しばらくの沈黙のあと、麻は震える声で呟いた。
シャツの後ろをそっと掴まれる感覚。
『麻、泣きそうな顔してたぞ。』
大連の言葉を思い出した。
なんでこんなことで…
俺が一人で帰ろうとしただけで
泣きそうになってんだよ…。
くそ…
「悪い。高崎。また今度な。」
「えっ」
「帰るぞ、麻。」
そう言うと、麻は黙ったまま俺の後についてきた。