「待っ…!!」
私は考えなしに香月くんの後を追って走り出した。
後ろで大連くんとよっちゃんの呼び止める声が
聞こえたけれど、もう後には引けない。
「ついてくんな。」
「ちょっと待って。ね?」
「なんで。」
信号で止まっているついでだからか、
香月くんは息切れする私を振り返って尋ねた。
「えっと…いつも一緒に帰ってたじゃん?」
「七瀬が勝手に付いてきただけだろ。」
「時には楽しくおしゃべりしたよね?」
「楽しかったのはお前だけだ。」
「ひ、ひどい…!」
その時、信号が青になり、
また香月くんは自転車のペダルを踏んだ。
「待って…!」
運動なんて得意じゃないから、
数百メートル走っただけでかなり限界だ。
香月くん、まったく速度を緩めるつもりないし。
「香月くん!」
のどに血の味がする…
血……
「香月くん!!止まって!」
今朝の夢を思い出す。
私を振り返らない。
まるで聞こえていないように。
そのあと…
「やだ!!止まって!!いや!!」
膝をついて叫ぶと、
遠くでかすかにキーっとブレーキ音が鳴った。
涙を浮かべる目で前を見ると、
香月くんが数メートル先で地面に足をつけていた。
私は苦しい呼吸を我慢して、香月くんに駆け寄った。
「ハァ…ハァ…お願い…」
香月くんの腕を力一杯握る。
溢れそうになる涙を気づかれないように拭った。
「…待って…っ行かないで…」
香月くんの表情を見る余裕はない。
しばらくその体勢で止まっていると、
香月くんは無言で自転車を降りた。
待ってくれるんだろうか…。
香月くんの顔を見上げると、
予想外に真剣な顔をしていた。
嫌な予感がする。
香月くんの口がゆっくりゆっくりと開いた。
「お前、何隠してんの。」