校門でよっちゃんと二人、香月くんを待っていると、いつもより遅めに香月くんたちがやってきた。


「麻、お疲れ~。」

「大連くん、お疲れ様。」


「ちょ、麻!
大連くんから名前呼びされてるの!?」

「えへへ…まぁ。」

「やるじゃん!仲良くなってるじゃん!
なんだかんだ青春して~」

さっきまでの頼りがいはどこへやら。
恋ばなを見つけると、すぐこれだ。


「今日は四谷さんもいるんだ。」

「そうなの。よっちゃん方向逆だから
すぐお別れなんだけどね。」

「それは寂しいな。」

「いいのいいの!か、香月くんいるし…。」

「あ~、香月ね、今日とんでもなく機嫌悪い
からストーカーやめた方がいいかもよ。」

「へ…」


香月くんを群衆の後ろの方に見つけると、
たしかに納得。

いつもは力の抜けた顔をしているのに、今日は
眉間にシワを寄せて口をへの時に曲げている。

これ、完全に自転車なくなったからですよね…


心に罪悪感が芽生えたが、見ない振りをする。


「ちょ、麻!!」

「え?」

よっちゃんが小声で私の袖を引っ張る。

「『え?』じゃない!見て!自転車!」

「えっ!」


もう一度香月くんの方を見ると、
その手には自転車が握られていた。


嘘…見つかってる…?
部室棟の裏なんて滅多に行くはずないのに…
(だからこそここで私はキレられた。)


「あいつね、自転車盗まれてさ。」

「えっっ!」

大連くんのの台詞にさらに驚く。

「俺の置きチャリ貸してやってもご機嫌斜め」

「お、置きチャリ…!?」


この人、置き傘だけでなく置きチャリまであるの…!?

って、そうじゃなくて!
そしたら香月くんを守らなきゃ。



私の真横まで香月くんが来て、
不機嫌そうな顔のまま私を一瞥した。


「か、香月くん…お疲れ。災難だったね。」

「ホントだよ。
ストーカーだけじゃなく今度は泥棒。」

「アハハ~」

「笑い事じゃねぇし。」


香月くんににらまれ、一気に萎縮する。


「まぁまぁ。八つ当たりすんなって、香月。」

「八つ当たりじゃねぇ。
日頃の恨みをそのまんま返してるだけだ。」

「ま…待って。自転車なら一緒に帰ろう。」

「は?」


香月くんは虫を見るような目で私を見た。


「お前、チャリねぇじゃん。」

「へ…あ…
あーー!!」


しまった。
慌ててたからそのまま校門まで来ちゃった…!


「じゃ。」

香月くんは少し機嫌を取り戻し、
珍しく私に手なんか振って走り出した。