***
「あー、まぁ二人で帰るくらいいいだろ。」
「部室で二人きりの時何してたのかが気になるわ。」
下世話な高1男子たちはすぐにそういう話に持っていこうとする。
「他にもある」
俺はまずは愚痴を聞いてもらうために軌道修正した。
***
ある日の練習終わり、ダベりながらクールダウンのストレッチをしていた時だ。
「おい麻。」
「なに?」
香月は少し離れて片付けをしていた七瀬さんに近づいていった。
見たくもないのに、つい横目で追ってしまう。
「どうせ暇だろ。ストレッチ手伝え。」
「あ、じゃあ片付け終わったら…」
七瀬さんは優しい笑顔で笑った。
香月は満足そうな表情で、こちらに戻ってきてストレッチを再開する。
見てるこっちが恥ずかしくなり、思わず香月に話しかけた。
「お前ってさ…」
「ん?」
「七瀬さんのことめっちゃ好きだよな。」
「付き合ってるからな。」
しらっとそういうことを言ってくるのに腹が立つ。
俺の気も知らずに!
いや、知っててやってるな。
香月の場合。
「へぇへぇ。よかったっすな。」
精一杯の嫌味にも香月は特に反応なし。
「……実際どこまでいってんだよ…」
「そんなん言うかよ。」
「あんまり進展なし?」
「…」
もしかして、付き合ってからそんなに進んでない…?
香月がガキっぽくからかったりしてるから、
なんだかんだ子供っぽい付き合いなんじゃ…
「信乃っお待たせ。」
七瀬さんがパタパタと小走りで香月のそばに駆け寄ってきた。
「麻、俺が先に押してやるよ。
今日結構走り回ってたろ?」
「え…あ、ありがと。」
どういう意図か、香月は七瀬さんの後ろに屈み、
ニコニコと悪い笑顔を浮かべた。