今日の練習後のことだ。

***


先輩も引退し、寂しい反面少し気楽になった練習が終わり、
俺たちはいつも通りたむろしながら部室へ向かった。


「あれ、香月は?」

「先行ったぞ」


誰かがそう言うから、特別気にすることもなく部室への歩みを進めた。


何の気なしに部室の扉を開けると、
そこには香月と七瀬さん。

一瞬見てはいけないものを見てしまったのではないかと焦ったが、
よく見ると普段と同様机を囲んで話しているだけだった。

俺は安心して中に入る。


「みんな、おつかれさま!」

七瀬さんが優しい笑顔で労いの言葉をかけた。

その笑顔に心が癒される。

フラれて諦めたものの、七瀬さんの笑顔はいまだに俺の癒しだ。


「七瀬さんもおつかれ。
何してたの?」

七瀬さんの手元の紙に視線を落とす。

「備品の買い出しリスト。
私の仕事なのに終わってないから…」

そう言って、気の弱そうな笑顔を見せた。


「もしよかったら…「ホント、どんくせぇな」

俺の勇気をさえぎったのは香月。


「わ、わかってるよ。
時間かかってもちゃんとやるもん。」

「じゃあ先帰っていいー?」

「…」


ホント、香月って中学生みたい。

好きな子いじめて、何が楽しいんだよ。

俺だったら絶対優しくすんのに…


沈黙する七瀬さん。

気まずくなった俺はそっと二人に背を向けた。


不毛な恋に構ってられるか。

早く帰ってユーチューブでも見よ。


そのとき、ギリギリ聞こえるくらいの大きさで七瀬さんが呟いた。




「…一緒にかえろうよ。信乃。」



うかがうような、不安そうな声。

いつもみたいにすぐからかう言葉が香月から発せられると思ったのに、再び背後に沈黙が流れた。


俺は香月の甘ったるい言葉なんか聞きたくなくて、焦って部室をあとにした。