「あとどんくらい?」

「あと20分。ごめんね…」

「謝りすぎ。ホント、どんくせぇな。」


そう言った香月くんの表情はからかうような愛おしむような、優しい笑顔。


心の中に閉じ込めた気持ちがどんどん大きくなるのを感じる。

枯らすにはどうしたらいいんだ。

いっそ気持ちを伝えて、玉砕する…?


いや、そもそも私は…

この気持ちを枯らしたいんだろうか…。


香月くんに知られないように
日陰でこっそりと
育てたらなにか実りはしないだろうか…。


バカだな…。
そんな希望あるわけ…


「麻、最近なんか隠してる?」

「え…」


手を止め、香月くんに視線を向ける。

途端に目が合い、離せなくなる。


「…ないよ。
どうして?」

「お前は隠し事も嘘も下手だよな。
女らしくない。」

「そんな女もいるの!」

「ふ~ん…」


ついむきになって反論してしまった私を
香月くんはいぶかしげに見下ろした。


そして、一歩。私との距離を縮めた。

狭い部室での一歩は大きい。

「な、に…?」

ペンを持つ手が震えないように必死に冷静を保つ。

心臓は苦しくなるくらい早鐘を打っている。



香月くんは私の髪にそっと触れた。

撫でるような香月くんの触り方…


ドキドキする。


ペンはいつの間にか手から離れていた。




「んっ…」


「なに。髪で感じてんの?」


「なっ、何を…!////」


「お前ってホント、ズルいよな。」


ズルい?

ズルいのは香月くんだ。


まるで私が逃げられないのをわかってるみたいに…


香月くんとの距離がさらに近くなる。


「ここ…部室だし…
あの、資料も…つ、作らないと…」


私の言葉を無視して、香月くんは私の身体を引き寄せた。

文化祭の時の感覚が全身に甦る。




「嫌なら逃げればいい」




やっぱり。
ズルいのは香月くんだよ。

嫌じゃない…
嫌じゃ…ない…けど…


今まで髪を撫でていた優しい手のひらが
私の頬から首筋を撫でる。

髪と全然違う。

全感覚が香月くんの触れた跡を追いかける。



「か…香月くん…っ」

「…」



私の首筋に当たる唇の感覚。

「っ…」

私の体温と同じ温度で、優しく
優しくたどっていく。


「かづ…き…くん」


再び名前を呼ぶと、香月くんは私との距離を広げた。