「麻は、香月にコクる気ないの?」
「えっ!!?」
突拍子もないその質問に、私はあわてふためく。
「なっ、なんで、知って…
もしかしてよっちゃんが…!」
「いや、見てれば気づくし。」
「うそ…」
よっちゃんならまだしも、大連くんにまでバレてたなんて…
「もしかして香月くんも気づいてるのかな。」
「いや、アイツ鈍いから。」
私たちは揃って接客する香月くんに視線を向けた。
女子と近づいて、話して、写真まで撮ってる。
「今日ね、また夢見たんだ。
予知夢じゃないと思うけど、香月くんが他の人と付き合う夢。」
「ふ~ん」
「うらやましい…」
「現れてもいないヤツに嫉妬してどうすんだよ。」
「…うん。
でも、私が香月くんと付き合えるわけないし。」
「なんで?」
「予知夢のことがバレる前、私が香月くんの登下校に張り付いていたとき…
香月くん完全に私のこと嫌ってたもん。
それに、告白しようともしていない私を振ろうとしてたし。」
「ああ、部室棟の裏でキツいこと言ったよな。
あん時はごめんな。」
「いや、大連くんはかばってくれて…」
「まぁでもさ、それは付き合えない理由にはならないと思うけどな。」
「え?」
大連くんはいつものように穏やかに笑って見せた。
「言葉にしなきゃ、考えは現実に存在しないことになる。
そしたら、未来は今のまま変わらない。」
「え??」
ますます意味がわからない。
私の国語脳ではついていけない。
「つまり、言わなきゃなんも始まんねぇってこと」
「言わなきゃ…始まらない…」
「未来なんて、結構簡単に変えられるかもよ。」
そう言って、大連くんはもとの席に戻っていった。
私の心臓はトクントクンといつもより早く血を送る。
「言葉で、未来は…変えられる。」
自然と涙が落ちた。
予知夢を見た朝と同じ涙。
顔が髪で隠れていてよかった。
私はすぐに止まった涙をさっと拭い、
喧騒の中へ戻っていった。