「昔から、男の子が好きなの。」
ズビーッと彼が勢いよく鼻をかむ。その目も鼻も真っ赤で、思わずよしよしと頭を撫でてしまった。人のいない中庭の隅っこに移動してきた私たちは、並んでベンチに座っていて。
「アメリカでは別にそんなに特別じゃなかったの。周りにもいたし。でも日本ではやっぱり隠した方がいいって、パパとママが。」
「・・・そっか。」
「実際、小学生の時に痛い目見たしね。」
そう言って雪緒くんは苦い顔をする。小学校4年生まで日本いて、そのあとアメリカに引っ越したという雪緒くん。小学生の時の事についてそれ以上は何も語らなかったけど、悲しい思い出があるの事は明白だ。
「普通にならなきゃって思ってさ。一人称とか、言葉遣いとか直してみたり。」
あとは。と雪緒くんが1度俯いてから、顔を上げて私の方を見る。
「この笑顔とか。」
「うわ、こうやって見るともはやホラー。」
「容赦ないな。」
ズビッとまた鼻を啜って、雪緒くんが呟く。
「別にすごく苦痛な訳じゃないの。王子様キャラって割り切っちゃえば演劇みたいで楽しいし、アタシ乙女ゲームでもこういうメインぽいキャラから攻略してくタイプだから。情報は多くて。」
「ああ、真逆だ。私は逆にいちばんミステリアスなキャラから攻めるタイプ。そういうところから入ると意外とメインのキャラと兄弟設定とかあって萌えるんだよね。」
「血の繋がってない兄弟設定ね。あとは今は敵同士でも昔は命を預けた仲間だったりね。」
「「・・・」」
一瞬の沈黙の後、2人で固く手を握りあった。こやつ同志だ、悪いやつじゃない。
「女の子ももちろん嫌いとかじゃないの。でも、でも出来ればやっぱりキャーキャー言われるんじゃなくて一緒にキャーキャー言いたい。メイクの話とか、スイーツの話とか、混ざりたくなるの必死に我慢してるんだから。」
そこまで言って彼は一度息を吐いて、眉を下げて私の顔を覗き見る。
「ごめんこんなこと話して。困るよね。」
「へ?何で困るの?」
「どう反応していいか分からないでしょ。大丈夫、慣れてるから。人に理解してもらえないのも仕方の無いことだなって思うし・・・」
「・・・なんで人に理解してもらわなきゃいけないんだろう。」
私の言葉に、雪緒くんは驚いたように私を見つめた。
その顔には何とも言えない不安げな表情が浮かんで、ああ。自分の気持ちを否定されたことが何度もあるんだろうなあ。
「誰を好きになろうがその人の自由なのに、雪緒くんの大切な気持ちなのに、なんで人に理解してもらえなきゃいけないんだろう。変とか、普通じゃないのか、そんなの誰も決めれないのにね。」
彼の表情が変わるのが分かった。
陽にすける金髪、蒼味がかった瞳、本当に惚れ惚れしちゃうくらい美しい。
「雪緒くんの気持ちは、雪緒くんだけのものだもん。大事な自分の気持ちを、そんな苦笑いで隠しちゃダメダメ!!」
そう言って彼の眉間を人差し指でつつく。
少しの間の後に、彼はふっと吹き出して。
「ゆいゆいって、変な人ね。」
「・・・詳しいけどよく言われる。」
「だろうね。」
「ねえねえ、春原くんのどこを好きになったの。」
「えええ、いやよ恥ずかしい。」
「いいじゃん~~聞かせてよ!お願い!」
恥ずかしがりながらも雪緒くんは口を開く。最初は恥ずかしがっていたのにどんどんヒートアップしていって、これでもかというくらい雪緒くんの恋愛観を知ってしまった。性癖まで。ちょっとそこは知りたくなかった。
一通り話し終えた雪緒くんはわざとらしくため息をつく。
「でも、まさかこんなに早くバレるなんてねえ。」
『僕の方が、絶対に彼を幸せに出来ると思うよ。』
彼。この言葉が決定的だった。
雪緒くんがいつも後ろ振り向く時にチラチラ春原くんのこと見てた事とか、あとは春原くんが寝てる時はわざと大きい声で話してたこととか。
「私にちょっかいかけてるようで、全部春原くんにかけてたんだよね。」
「うわあ、そこまでバレてたの。滑稽すぎて泣けてくる。」
顔覆った彼は耳まで真っ赤で、でも、と少し不貞腐れたように呟く。
「・・・話しかけたくても恥ずかしくて話しかけられなくて。」
「は?可愛いなんなの??」
「なんでキレてんの?」
あまりにも可愛くてよく分からない感情になってしまった。
気付けば下校のチャイムがなって、2人で急いで立ち上がる。いけない。校舎の鍵が閉められてしまう前に出なければ。
教室にカバンを取りに戻って、ドアから出る前に雪緒くんが立ち止まる。
「・・・ゆいゆい、あの、このことは」
「言わないよ。わたし、口だけは固いの。」
「ああ、頭ふにゃふにゃそうだもんね。」
「ディスったよね完全に。」
躊躇いながら口を開いた彼は、私の言葉にははっ、と声を上げて笑って。そのまま私の方を見つめて。ありがとう、と微笑む。・・・あらら、意識しなくても完璧な王子様スマイル。惚れ惚れしちゃうね。
次の日からも、雪緒くんの態度は全く変わらない。いつも通り何かあれば声をかけてきて、私をとびこえて春原くんの方をチラチラと見る。
ポコッ、とつくえの下で雪緒くんの足を叩く。何、と目で訴えかけてきた雪緒くんに、み す ぎ と口パクで伝えれば彼は顔を赤くして。
「・・・秋山さん、この問題は?」
「これはね・・・」
赤くなってるのがみんなにバレないようにと教科書を見てるフリして口元を隠すから、可愛くて思わず笑ってしまう。
ジトッと睨まれたけど、知らん顔で教科書を開いた。
ズビーッと彼が勢いよく鼻をかむ。その目も鼻も真っ赤で、思わずよしよしと頭を撫でてしまった。人のいない中庭の隅っこに移動してきた私たちは、並んでベンチに座っていて。
「アメリカでは別にそんなに特別じゃなかったの。周りにもいたし。でも日本ではやっぱり隠した方がいいって、パパとママが。」
「・・・そっか。」
「実際、小学生の時に痛い目見たしね。」
そう言って雪緒くんは苦い顔をする。小学校4年生まで日本いて、そのあとアメリカに引っ越したという雪緒くん。小学生の時の事についてそれ以上は何も語らなかったけど、悲しい思い出があるの事は明白だ。
「普通にならなきゃって思ってさ。一人称とか、言葉遣いとか直してみたり。」
あとは。と雪緒くんが1度俯いてから、顔を上げて私の方を見る。
「この笑顔とか。」
「うわ、こうやって見るともはやホラー。」
「容赦ないな。」
ズビッとまた鼻を啜って、雪緒くんが呟く。
「別にすごく苦痛な訳じゃないの。王子様キャラって割り切っちゃえば演劇みたいで楽しいし、アタシ乙女ゲームでもこういうメインぽいキャラから攻略してくタイプだから。情報は多くて。」
「ああ、真逆だ。私は逆にいちばんミステリアスなキャラから攻めるタイプ。そういうところから入ると意外とメインのキャラと兄弟設定とかあって萌えるんだよね。」
「血の繋がってない兄弟設定ね。あとは今は敵同士でも昔は命を預けた仲間だったりね。」
「「・・・」」
一瞬の沈黙の後、2人で固く手を握りあった。こやつ同志だ、悪いやつじゃない。
「女の子ももちろん嫌いとかじゃないの。でも、でも出来ればやっぱりキャーキャー言われるんじゃなくて一緒にキャーキャー言いたい。メイクの話とか、スイーツの話とか、混ざりたくなるの必死に我慢してるんだから。」
そこまで言って彼は一度息を吐いて、眉を下げて私の顔を覗き見る。
「ごめんこんなこと話して。困るよね。」
「へ?何で困るの?」
「どう反応していいか分からないでしょ。大丈夫、慣れてるから。人に理解してもらえないのも仕方の無いことだなって思うし・・・」
「・・・なんで人に理解してもらわなきゃいけないんだろう。」
私の言葉に、雪緒くんは驚いたように私を見つめた。
その顔には何とも言えない不安げな表情が浮かんで、ああ。自分の気持ちを否定されたことが何度もあるんだろうなあ。
「誰を好きになろうがその人の自由なのに、雪緒くんの大切な気持ちなのに、なんで人に理解してもらえなきゃいけないんだろう。変とか、普通じゃないのか、そんなの誰も決めれないのにね。」
彼の表情が変わるのが分かった。
陽にすける金髪、蒼味がかった瞳、本当に惚れ惚れしちゃうくらい美しい。
「雪緒くんの気持ちは、雪緒くんだけのものだもん。大事な自分の気持ちを、そんな苦笑いで隠しちゃダメダメ!!」
そう言って彼の眉間を人差し指でつつく。
少しの間の後に、彼はふっと吹き出して。
「ゆいゆいって、変な人ね。」
「・・・詳しいけどよく言われる。」
「だろうね。」
「ねえねえ、春原くんのどこを好きになったの。」
「えええ、いやよ恥ずかしい。」
「いいじゃん~~聞かせてよ!お願い!」
恥ずかしがりながらも雪緒くんは口を開く。最初は恥ずかしがっていたのにどんどんヒートアップしていって、これでもかというくらい雪緒くんの恋愛観を知ってしまった。性癖まで。ちょっとそこは知りたくなかった。
一通り話し終えた雪緒くんはわざとらしくため息をつく。
「でも、まさかこんなに早くバレるなんてねえ。」
『僕の方が、絶対に彼を幸せに出来ると思うよ。』
彼。この言葉が決定的だった。
雪緒くんがいつも後ろ振り向く時にチラチラ春原くんのこと見てた事とか、あとは春原くんが寝てる時はわざと大きい声で話してたこととか。
「私にちょっかいかけてるようで、全部春原くんにかけてたんだよね。」
「うわあ、そこまでバレてたの。滑稽すぎて泣けてくる。」
顔覆った彼は耳まで真っ赤で、でも、と少し不貞腐れたように呟く。
「・・・話しかけたくても恥ずかしくて話しかけられなくて。」
「は?可愛いなんなの??」
「なんでキレてんの?」
あまりにも可愛くてよく分からない感情になってしまった。
気付けば下校のチャイムがなって、2人で急いで立ち上がる。いけない。校舎の鍵が閉められてしまう前に出なければ。
教室にカバンを取りに戻って、ドアから出る前に雪緒くんが立ち止まる。
「・・・ゆいゆい、あの、このことは」
「言わないよ。わたし、口だけは固いの。」
「ああ、頭ふにゃふにゃそうだもんね。」
「ディスったよね完全に。」
躊躇いながら口を開いた彼は、私の言葉にははっ、と声を上げて笑って。そのまま私の方を見つめて。ありがとう、と微笑む。・・・あらら、意識しなくても完璧な王子様スマイル。惚れ惚れしちゃうね。
次の日からも、雪緒くんの態度は全く変わらない。いつも通り何かあれば声をかけてきて、私をとびこえて春原くんの方をチラチラと見る。
ポコッ、とつくえの下で雪緒くんの足を叩く。何、と目で訴えかけてきた雪緒くんに、み す ぎ と口パクで伝えれば彼は顔を赤くして。
「・・・秋山さん、この問題は?」
「これはね・・・」
赤くなってるのがみんなにバレないようにと教科書を見てるフリして口元を隠すから、可愛くて思わず笑ってしまう。
ジトッと睨まれたけど、知らん顔で教科書を開いた。