「よ、社長出勤。」

次の日、大きなマスクをしたまま昼過ぎに登校してきた春原くんに、早速塚田くんがちょっかいをかける。

「インフルなんてどこでもらってきたんだよ。」
「分からない。初詣とかかな。」
「へえ~、春原も神様に挨拶とかするんだ。意外。」
「どういう意味?」

春原くんの鋭いツッコミにさっちゃんがペロッと舌を出す。うーん可愛い、100点満点。
ていうか、と自分の机を見て、春原くんは呆れたような声を出す。

「・・・なにこれ。」

彼の机の上にのっているのは大量のお菓子だった。おせんべい、スナック菓子、知育菓子にインスタントのラーメンまで。野球部の森田くんを筆頭に近づいてきた坊主群軍団はニッとはにかんで。

「ちゃんと甘くないのにしたぜ。」
「いやそういう事じゃなくて。」
「ちゃんと賞味期限も確認したから!ゆっくり食べれるから安心しろ。」
「だからそういう事でもない。」
「え?じゃあなに?好みじゃなかったの?泣くよ?」
「急に不貞腐れるのやめてよ。」

容赦ないツッコミである。
しかし彼らは心底嬉しそうに笑う。ドエムか。

「・・・春原、お帰り。」
「・・・ただいま。」

ていうか俺インフルで休んでただけなんだけどね、なんて憎まれ口を叩きつつ、
なんだか照れ臭そうに彼らが言い合うから、見ていた私も気恥ずかしくなってしまった。

昨日私が学校に戻った時、勇気を振り絞って教室に入ったのにも関わらず、そこにあったのはたくさんの優しさだった。どうやらさっちゃんと塚田くんもあの後何か話してくれたようだった。
かける言葉は『ごめんね』じゃなくて『おかえり』だ。そう皆で決めていた。

チャイムが鳴って、席について先生が来るのを待つ。隣には彼の姿があって。たった一週間ちょっとぶりなのに、なんだかすごく懐かしい感じがした。

「・・・春原くん。」

授業が始まる直前、小声で彼の名前を呼ぶ。
ん?と私の方を向いた彼に、小さく耳打ちをする。

私の言葉に春原くんは少し照れたように笑って、
そして教科書で顔を隠しながら、口をパクパクさせるのだ。


た だ い ま


その言葉に胸がじんわりと温かくなって、
大切な言葉が、思い出が、また一つ、増えた。