昼休み、ザワザワと教室の入り口付近が騒がしくなる。
女の子たちの黄色い悲鳴とコソコソ声。
彼女たちの視線の先には、ゆらゆらとゆれる癖毛の髪。
「春原、凄いねえ。」
少し呆れたように呟くさっちゃんに無言のまま同意する。
体育祭のバスケットでの春原くんの活躍の力はすさまじくて、
あの日から後輩の女の子のファンが一気に増えたようだ。
休み時間のたびに教室の入り口に女子達が集まってきては、
黄色い声を上げながら春原くんを観察する。・・・当の本人は頭をゆらゆらと揺らして寝てるんだけど。
「まあ、春原元々人気もあるしなあ。」
菓子パンをかじりながら塚田くんが春原くんの肩をゆする。
数回のチャレンジののちやっと目を開いた春原くんはだるそうに顔を挙げて。
「・・・眠い。」
「昼休み終わっちゃうよ。ご飯食べなくていいの?」
「・・・よくない。」
のそのそ、と効果音が見えそうなくらいの動きでカバンを開けてお弁当を取り出す。
目覚めた春原くんに廊下の女の子たちの熱い視線は集まっていて、
それに気づいてすらいないのか、彼はそちらを一度も見ることはなく。
「春原くんモテモテだね。」
「漫画だとこういうのって隣の席の女の子がいやがらせされるのが王道パターンよね。」
「え・・・どうしよう私・・・空手習おうかな・・・」
「まさかの武闘派タイプ。」
「いやあ、大丈夫でしょ秋山なら。」
「まあ、それもそうね。大丈夫か、結依だし。」
「え、それどういう意味?絶対いい意味じゃないよね??」
ねえ?と詰め寄ればさっちゃんも塚田くんもハハッと私から目をそらして笑う。
絶対馬鹿にしてるよね、してないわけないよね。
「はい、これ。」
ポケットから何かを取り出して春原くんが私たちに手渡す。
見ればそれは小さなチョコレートで。
「なに。どうしたのこれ。」
「なんかもらった。」
「誰に?」
「・・・女の子?」
「なんで疑問形?」
ポケットから中々の量のチョコを取り出したかと思えば、今度はカバンから
可愛くラッピングされたクッキー、ブラウニー、チーズケーキ・・・って。
「本当にすごい人気だね・・・。」
思わず声が出てしまった私に、当の本人はん?と小さく首をかしげる。
うわ、いまのはあざとい。あざといぞお前。不覚にもキュンとした。
どうやら甘いのはあまり得意ではない春原くん。
今までもらったものはお家に帰ってから妹やお母さんに食べてもらっていたようだけど、
ついに家族からもギブアップされてしまったよう。
「でもさすがに春原宛ての物食べれないよな・・・。」
塚田くんの言葉に頷く。春原くんもじっとチョコレートを見つめてから、自分のポケットに戻す。
「・・・だよね。今度からちゃんと断る事にする。」
「えらい!えらい春原!それが本当の優しさだ!」
謎のテンションで塚田くんが春原くんの頭をクシャクャと撫でれば、
割と本気で怒られていた。ウケる。
春原くんフィーバーも以前よりかは少し落ち着いてきたが、
それでもまだ教室に通い続けている子は少なくない。
・・・その中でも。
「悠先輩!お昼ご飯、一緒に食べませんか!」
ドア付近にいた春原くんを捕まえて、お弁当袋を抱えたまま話しかける女の子。
けだるそうな春原くんの様子をさして気にした様子もなく、グイグイと彼の手を引っ張る。
「出た。キラキラ女子代表。」
「すごいなあ。毎日毎日。」
若干あきれた様子のさっちゃんに塚田くんも同じ表情。
綺麗に巻かれた髪の毛に、他の女の子たちよりも圧倒的に短いスカート。
爪はキラキラと光っていて、少し近づくだけでいい匂いがする、ごめんなさい、きもいとか思わないで。
「1年生の子?」
「そうみたいだね。確か・・・美和ちゃん、だった気がする。」
「なにそれ。名前まで可愛いのね。」
一生懸命春原くんに話しかけるその姿は小さい背も相まってまるで小動物のようで。
可愛い、非常に可愛い。
「ごめん、俺お昼、教室で食べたくて。」
「え~~!たまには中庭とか行きましょうよ!今日天気いいですし!」
「・・・いや、でも、課題やんなきゃ。」
「少しくらいいいじゃないですか~~!」
チラ、と春原くんがこちらに視線で訴えかけてくる、が条件反射で目を逸らしてしまった。
さっちゃんと塚田君も同じように目をそらしていて、うん、ごめんなさい。
ていうかあなた課題やるつもりは絶対ないよね。寝るよね。
結局は春原くんの粘り勝ちで美和ちゃんは教室に戻っていったが、
落ち込んだ様子なんて全くなく、次はお弁当作ってくるので一生に食べましょう!なんて笑顔で手を振って去っていった。恋する女子はたくましい。
こんな風に美和ちゃんの猛アタックを見る事は珍しくなくて。
特に私に何か困ったことがある訳ではなく、こんな感じで心の中で彼らの攻防の
日記をつけているのだが。ひとつ、気になる事がある。
「結依、どうかした?」
「・・・いや、別に。」
春原くんが美和ちゃんいに背を向けて、彼女と一瞬目が合う瞬間。
・・・なんだろう、毎回、睨まれている気がする。
今日もそう。目が合ったから会釈してみれば、さっきまでの可愛い笑顔はどこへやら。険しい顔で睨まれた。
秋山結依、理由も分からず普通にショックです。
女の子たちの黄色い悲鳴とコソコソ声。
彼女たちの視線の先には、ゆらゆらとゆれる癖毛の髪。
「春原、凄いねえ。」
少し呆れたように呟くさっちゃんに無言のまま同意する。
体育祭のバスケットでの春原くんの活躍の力はすさまじくて、
あの日から後輩の女の子のファンが一気に増えたようだ。
休み時間のたびに教室の入り口に女子達が集まってきては、
黄色い声を上げながら春原くんを観察する。・・・当の本人は頭をゆらゆらと揺らして寝てるんだけど。
「まあ、春原元々人気もあるしなあ。」
菓子パンをかじりながら塚田くんが春原くんの肩をゆする。
数回のチャレンジののちやっと目を開いた春原くんはだるそうに顔を挙げて。
「・・・眠い。」
「昼休み終わっちゃうよ。ご飯食べなくていいの?」
「・・・よくない。」
のそのそ、と効果音が見えそうなくらいの動きでカバンを開けてお弁当を取り出す。
目覚めた春原くんに廊下の女の子たちの熱い視線は集まっていて、
それに気づいてすらいないのか、彼はそちらを一度も見ることはなく。
「春原くんモテモテだね。」
「漫画だとこういうのって隣の席の女の子がいやがらせされるのが王道パターンよね。」
「え・・・どうしよう私・・・空手習おうかな・・・」
「まさかの武闘派タイプ。」
「いやあ、大丈夫でしょ秋山なら。」
「まあ、それもそうね。大丈夫か、結依だし。」
「え、それどういう意味?絶対いい意味じゃないよね??」
ねえ?と詰め寄ればさっちゃんも塚田くんもハハッと私から目をそらして笑う。
絶対馬鹿にしてるよね、してないわけないよね。
「はい、これ。」
ポケットから何かを取り出して春原くんが私たちに手渡す。
見ればそれは小さなチョコレートで。
「なに。どうしたのこれ。」
「なんかもらった。」
「誰に?」
「・・・女の子?」
「なんで疑問形?」
ポケットから中々の量のチョコを取り出したかと思えば、今度はカバンから
可愛くラッピングされたクッキー、ブラウニー、チーズケーキ・・・って。
「本当にすごい人気だね・・・。」
思わず声が出てしまった私に、当の本人はん?と小さく首をかしげる。
うわ、いまのはあざとい。あざといぞお前。不覚にもキュンとした。
どうやら甘いのはあまり得意ではない春原くん。
今までもらったものはお家に帰ってから妹やお母さんに食べてもらっていたようだけど、
ついに家族からもギブアップされてしまったよう。
「でもさすがに春原宛ての物食べれないよな・・・。」
塚田くんの言葉に頷く。春原くんもじっとチョコレートを見つめてから、自分のポケットに戻す。
「・・・だよね。今度からちゃんと断る事にする。」
「えらい!えらい春原!それが本当の優しさだ!」
謎のテンションで塚田くんが春原くんの頭をクシャクャと撫でれば、
割と本気で怒られていた。ウケる。
春原くんフィーバーも以前よりかは少し落ち着いてきたが、
それでもまだ教室に通い続けている子は少なくない。
・・・その中でも。
「悠先輩!お昼ご飯、一緒に食べませんか!」
ドア付近にいた春原くんを捕まえて、お弁当袋を抱えたまま話しかける女の子。
けだるそうな春原くんの様子をさして気にした様子もなく、グイグイと彼の手を引っ張る。
「出た。キラキラ女子代表。」
「すごいなあ。毎日毎日。」
若干あきれた様子のさっちゃんに塚田くんも同じ表情。
綺麗に巻かれた髪の毛に、他の女の子たちよりも圧倒的に短いスカート。
爪はキラキラと光っていて、少し近づくだけでいい匂いがする、ごめんなさい、きもいとか思わないで。
「1年生の子?」
「そうみたいだね。確か・・・美和ちゃん、だった気がする。」
「なにそれ。名前まで可愛いのね。」
一生懸命春原くんに話しかけるその姿は小さい背も相まってまるで小動物のようで。
可愛い、非常に可愛い。
「ごめん、俺お昼、教室で食べたくて。」
「え~~!たまには中庭とか行きましょうよ!今日天気いいですし!」
「・・・いや、でも、課題やんなきゃ。」
「少しくらいいいじゃないですか~~!」
チラ、と春原くんがこちらに視線で訴えかけてくる、が条件反射で目を逸らしてしまった。
さっちゃんと塚田君も同じように目をそらしていて、うん、ごめんなさい。
ていうかあなた課題やるつもりは絶対ないよね。寝るよね。
結局は春原くんの粘り勝ちで美和ちゃんは教室に戻っていったが、
落ち込んだ様子なんて全くなく、次はお弁当作ってくるので一生に食べましょう!なんて笑顔で手を振って去っていった。恋する女子はたくましい。
こんな風に美和ちゃんの猛アタックを見る事は珍しくなくて。
特に私に何か困ったことがある訳ではなく、こんな感じで心の中で彼らの攻防の
日記をつけているのだが。ひとつ、気になる事がある。
「結依、どうかした?」
「・・・いや、別に。」
春原くんが美和ちゃんいに背を向けて、彼女と一瞬目が合う瞬間。
・・・なんだろう、毎回、睨まれている気がする。
今日もそう。目が合ったから会釈してみれば、さっきまでの可愛い笑顔はどこへやら。険しい顔で睨まれた。
秋山結依、理由も分からず普通にショックです。