疲れた~、という声と共に生徒が帰宅していく。
勝った話をしている者、負けた話をしている者。
内容はそれぞれだけど、その顔はみな晴れやかで。
「・・・お疲れさま。」
「ありがとう。」
体育館の裏。
誰もいない静かな石段の淵に腰かける彼は、いつにもまして眠そうで。
「体調は?」
「大分回復したよ。ありがとう。委員の仕事も今日は休んでいいって。」
「そっか。」
「惜しかったね。」
点差は2点。僅差で2組に敗れてしまって、総合結果は準優勝。
悔しそうに話していたクラスの皆だけど、その顔はやはり晴れやかで。
・・・春原くんも、例外ではない。
「あ、でもさっき花ちゃんがね。皆の事ご飯に連れてってくれるって言ってたよ。」
「あのケチで有名な花ちゃんが?」
「そう。焼肉は無理だけどって。皆の雄姿に感動したんだって。」
「なにそれ。」
ふざけてそう言っていた花ちゃんだけど、
どうやら皆が協力し合っている姿に本気で感動したらしい。
よかった。あの人にもちゃんと心があるんだな。
疲れた~。と春原くんは小さく伸びをする。
その右足に持ってきた氷を当てれば、つめたっ、と声を出す。
「足、大丈夫?」
「・・・大丈夫。痛そうに見えた?」
「見えた。」
「そっか。」
実際痛いのだろう。充てている氷を避ける事はせず、
春原くんはそのまま話し続ける。
「怪我。した。」
「怪我?」
「中学生の時ね。右足、靭帯切った。」
「・・そっか。」
それ以上は何も話す気はないのだろう。
だから私も聞かない。
横に腰かけて、涼しい風を受ける。
少し冷たくなってきた風を受けながら、
そういえば、と気になっていた疑問を口にする。
「痛いのに、なんで急にバスケ出たの?」
「なんでって・・・」
春原くんはなぜかため息をつく。
ん?私なんか変な質問した?
「だってあんなに嫌がってたのに。」
「・・・秋山はほんとに・・・」
「はい!もう聞きません!どうせ馬鹿っていうんでしょ!!」
よく分からないけどどうやら私はまた馬鹿にされる事を言ったらしい。
もう聞かない!!私だって傷つくんだぞ!!
自分で自分の耳をふさいでいれば、
春原くんは、ははっと笑った。
あ、珍しい笑顔、見ちゃった。
笑うと目がクシャッとなって、
少し、幼くなる。
私がじっと見てしまった事に気づいたのだろう。
春原君は少しだけ目線を外して。
「このまま負けたら、誰かさんが責任感じちゃうんじゃないかなって。」
「・・・え?」
「ほんと、鈍くて困る。」
不意に立ち上がった春原くんは、
いつも通りの涼しげな顔に戻っていて。
「その子のため以外、無いでしょ。」
氷ありがとう、そう言い残して春原君は歩き出した。
追いかけるタイミングを逃して、残された私。
ふとポケットに何かが入っているのを感じて取り出せば、
出てきたのはいつかののど飴。リンゴ味。
封を開けて口に含む。
「・・・おいしい。」
おいしい。
おいしいけど、なんか。
いつも以上に、甘い気がする。
勝った話をしている者、負けた話をしている者。
内容はそれぞれだけど、その顔はみな晴れやかで。
「・・・お疲れさま。」
「ありがとう。」
体育館の裏。
誰もいない静かな石段の淵に腰かける彼は、いつにもまして眠そうで。
「体調は?」
「大分回復したよ。ありがとう。委員の仕事も今日は休んでいいって。」
「そっか。」
「惜しかったね。」
点差は2点。僅差で2組に敗れてしまって、総合結果は準優勝。
悔しそうに話していたクラスの皆だけど、その顔はやはり晴れやかで。
・・・春原くんも、例外ではない。
「あ、でもさっき花ちゃんがね。皆の事ご飯に連れてってくれるって言ってたよ。」
「あのケチで有名な花ちゃんが?」
「そう。焼肉は無理だけどって。皆の雄姿に感動したんだって。」
「なにそれ。」
ふざけてそう言っていた花ちゃんだけど、
どうやら皆が協力し合っている姿に本気で感動したらしい。
よかった。あの人にもちゃんと心があるんだな。
疲れた~。と春原くんは小さく伸びをする。
その右足に持ってきた氷を当てれば、つめたっ、と声を出す。
「足、大丈夫?」
「・・・大丈夫。痛そうに見えた?」
「見えた。」
「そっか。」
実際痛いのだろう。充てている氷を避ける事はせず、
春原くんはそのまま話し続ける。
「怪我。した。」
「怪我?」
「中学生の時ね。右足、靭帯切った。」
「・・そっか。」
それ以上は何も話す気はないのだろう。
だから私も聞かない。
横に腰かけて、涼しい風を受ける。
少し冷たくなってきた風を受けながら、
そういえば、と気になっていた疑問を口にする。
「痛いのに、なんで急にバスケ出たの?」
「なんでって・・・」
春原くんはなぜかため息をつく。
ん?私なんか変な質問した?
「だってあんなに嫌がってたのに。」
「・・・秋山はほんとに・・・」
「はい!もう聞きません!どうせ馬鹿っていうんでしょ!!」
よく分からないけどどうやら私はまた馬鹿にされる事を言ったらしい。
もう聞かない!!私だって傷つくんだぞ!!
自分で自分の耳をふさいでいれば、
春原くんは、ははっと笑った。
あ、珍しい笑顔、見ちゃった。
笑うと目がクシャッとなって、
少し、幼くなる。
私がじっと見てしまった事に気づいたのだろう。
春原君は少しだけ目線を外して。
「このまま負けたら、誰かさんが責任感じちゃうんじゃないかなって。」
「・・・え?」
「ほんと、鈍くて困る。」
不意に立ち上がった春原くんは、
いつも通りの涼しげな顔に戻っていて。
「その子のため以外、無いでしょ。」
氷ありがとう、そう言い残して春原君は歩き出した。
追いかけるタイミングを逃して、残された私。
ふとポケットに何かが入っているのを感じて取り出せば、
出てきたのはいつかののど飴。リンゴ味。
封を開けて口に含む。
「・・・おいしい。」
おいしい。
おいしいけど、なんか。
いつも以上に、甘い気がする。