「・・会長。」

保健室に行こうとする会長を呼び止める。

「なんで舞ちゃんのシャーペン持ってるんですか?」
「っ!」
「あ、いや!盗んだって思ってるわけじゃないですよ。あ、そりゃ最初は思いましたけど。でも今は。」

「会長は絶対いい人なんだなって思ったので。」

私の言葉に会長は驚いたように目を開いて、
そして、ふう、と息をついた。


「お話の前に、これ。」

会長が口を開こうとする前に、
後ろから聞こえてきたのは、けだるげな声。

声の主は私の前に屈みこんで、
絆創膏を膝に貼ってくれる。

「・・・何もない所で転んだの?」
「違うよ、ゴミ箱のせいだよ。」
「こんな大きいゴミ箱に気づかなかったの?」
「・・・だってゴミ箱が気配消してたから。」
「どういうタイプ言い訳?」
「ていうか春原くん、いつからいたの?」
「秋山が転んだ後くらい。」

間抜けな音したよね、と笑う春原くん。
怒りたいところではあるが、どうやら彼は転んだ私に会長があたふたしてるのを見て保健室に絆創膏をもらいに行ってくれたらしい。感謝。

私の膝に絆創膏を張り終わった春原くんは、
今度は会長に目を向けて。

「白河の後をつけてたのも、会長ですよね。」
「へー・・・、って、え!?!?」

そうなの!?
驚いて会長の方を見れば、
彼はもう一度息を吐きだして、ポツリと話し始めた。



・・・結論から言えば、
会長は舞ちゃんのストーカーではなかった。

ストーカーでは、なかったのだが。

「初めて彼女を見た時、辺りに爽やかな風が吹いたような感じがした。」
「・・・」
「勉学に励む姿は秀麗で、でも校庭で駆けている姿も美しくて。」

そう語る先輩はさっちゃんの姿を思い浮かべているのだろう、とても目を輝かせていて。
・・・どうやら会長は、さっちゃんのファン、らしい。割と熱狂的な。

会長ストーカー疑惑が始まってしまったのは数週間前。さっちゃんが会長の前でシャーペンを落としてしまった事がきっかけだった。

その時会長はまださっちゃんの存在を知らず、ただ普通に落ちたシャーペンを拾い、さっちゃんに声も掛けた。のだが、さっちゃんはその呼びかけに気づかず。

「もう一度声をかければよかったのだが・・あまりの美しさに見とれてしまって。」
「・・はあ、なるほど。」
「その後も!何度も返そうとしたのだが・・・」

女子と話すのが苦手な上、さっちゃんに心を射抜かれてしまった会長は、さっちゃんの美しさに勝てなかった(会長の言い方)らしく。

そんな時、移動教室で全学年が使用する生物室でたまたま見つけた忘れ物のノート。名前を見ればそれはさっちゃんの物だった。

「ノートも、シャーペンと一緒に返そうと思ったんだ。・・・あ、いや、でも少し。」
「少し?」
「使い終わっていたから・・・その、どうせ捨てるなら欲しいなとも、」
「春原くん、この人やっぱりクロかも。」
「僕もそう思った。」
「ちょっとまってくれ!!!」

そんなこと言わなきゃバレないのに、会長は顔を真っ赤にして下を向く。
・・・さてはこの人、ちょっと間抜け?

最後に無くなった下敷きは、忘れ物として最近生徒会室に届けられているらしい。

「さっちゃんの後をつけたのは?」
「断じてつけていた訳ではないのだ!学校では恥ずかしくて話しかけられないから、せめて2人ならと・・・!」
「それでも結局駄目だったんですか?」
「・・・その通り。」
「・・春原くんはなんで会長だってわかったの?」

俯いてしまった会長を横目に春原くんに聞けば、
彼はああ、と頷いて。

「別に会長だって決めつけてた訳じゃないけど。でもシンプルに、ネクタイ。」
「ネクタイ?」
「白河が、ネクタイでこの学校の生徒かも知れないって思ったわけでしょ。」
「うん。・・・あ。」
「この時期ちゃんとネクタイ締めてる人なんて絶滅危惧種だよ。」

確かに。初めて購買で会長を見かけた時も、夏場なのにきっちり締めているネクタイに目が行った記憶がある。

「本当のストーカーだったらそもそも制服姿のままで後なんて着けないし、すごく危ない人の可能性は低いんじゃないかなあって思ってた。」
「なるほど。」

同じトーンで話し続ける春原くんを思わずジッと見つめてしまえば、かれは小さく首を傾げる。

「何見てるの。」
「・・いや、春原くんってポンコツに見えてそうじゃないなあって。」
「おでこ貸して。くぼみ作ってあげる。」
「えええなにそれ怖。」

絶妙な言い回しに余計に恐怖を感じました。