僕はその日以降も彼女の病院に行くことはなかった。
いや行けなかった。

そんな自分が情けなくて嫌になっていた。

教室の誰も座っていない彼女の席を見るたびに胸が苦しくなった。

やっぱり病院に行こうとも考えた。
でも彼女を前で自然に振舞える自信がなかった。
何を話せばいいのかも分からなかった。

僕は彼女に会ったら、きっと普通ではいられなくなる。
もしかしたら泣いてしまうかもしれない。

そんなことになったら彼女を余計に不安にさせ、悲しませてしまうだろう。
勇気付ける言葉をかける自信もない。
そう、僕には何もできない。

そんな自分がもどかしかった。

僕はあれから屋上に行くこともなくなり、昼休みは教室で一人でいることが多くなった。

「冴木!」

あまり苗字で名前を呼ばれたことがない僕は一瞬自分のことかどうか分からなかった。

「あれ? 冴木君・・・・・だよね?」

午前中の授業が終わると同時に僕は声を掛けられた。
声の主は、あの武田君だった。

「ごめんね。そうだけど・・・・・」

「だよな。昼飯は弁当か? よかったら一緒に食わねえか。屋上で」 

 ――え?

思わぬ人からの昼の誘いに返事に戸惑った。
本当はひとりで落ち着いて食べるのが好きなんだ。

でも、せっかくの誘いを断る勇気も無かった。

僕は弁当箱を、武田君は購買で買ったパンの袋を持って屋上へと向かった。

久しぶりに来る屋上はいつの間にか初夏のように暑かった。

屋上の柵の脇に二人で並んで座る。
僕はいつもの弁当を広げ、武田君は袋の中からパンをひとつ取り出してかじり始めた。

なんとも気まずいというか、落ち着かなかった。

武田君はパンを黙々とかじっていた。

僕に何か言いたいんじゃなかったのかな?

男二人で無言で食べ続けている姿はなんとも言えなかった。

「いつもひとりで昼飯食ってんのか?」

ようやく武田君が口を開いた。

「うん。僕、ひとりが気楽なんだ」

「ふーん・・・・・」

会話が途切れる。

どうしよう。
僕も何か喋らないといけないかな?
でも何を話せばいいのか分からない。

「お前、スズメのこと、好きか?」
「え?」

武田君がストレートに問いかけてきた。
どうしてみんなこう唐突なんだろう。

僕は何も言えずに固まった。

「俺は好きだ」

武田君がさらっと言った。