そのまましばらく顔を上げられなかった。

本当にこれでよかったのか?
僕は何度も自分に問いかけた。

彼女が僕に逢いたがってる?
そんなこと、嘘だろ?

たとえそうだとしても病院に行く気持ちにはなれなかった。

彼女に会うのが嫌なのではない。
彼女の前でまともな自分でいられる自信がなかった。

自分の態度が彼女を傷付けるのが怖かった。
彼女を勇気付けるどころか、不安や怖さを大きくさせてしまうだろう。

その日、久しぶりにハルノートを開いた。

僕はもう一度小説を書くことを始めた。
まずは前に書いた小説《はなし》のラストシーンの書き直しだ。

ヒロインは死なせない。
ヒロインが死んでしまう話は書きたくなかった。

僕はラストシーンをハッピーエンドに書き換えた。
それは彼女が元気になるようにとの祈りだったかもしれない。

今の僕にできることはその程度のことだった。