「冴木君。あなたに聞いておいて欲しいことがあるの。あの子の病気のことで」
「病気?・・・」

「あの子はね。生まれつき心臓が弱いの。もしかしてあの子から聞いてる?」
「心臓があまり良くない悪いってことだけは」

でも、それほど大きな病気とは考えたことはなかった。
とてもそんな重い病人のようには見えなかったし。

「あの子は心臓の弁膜の病気でね。小さい時から病院の入退院を繰り返してたの」

お母さんは彼女の病気について話し始めた。
彼女は心臓弁に癒着があるという病気で先天性のものであるということ。手術がとてもに困難な場所であること。

「あの・・・それって命にかかわる病気なんですか?」

お母さんは黙ったまましばらく考え込む。
答えを聞くのが怖かった。

「あの子の心臓はいつ発作を起こすか分からない状態なの。身体の中に爆弾を抱えているようなものね。高校に入ってからしばらくは安定していたんだけど、最近また発作を起こすことが多くなってね」
「爆弾って?・・・・」

にわかには信じられないような話に僕は言葉が詰まった。


「まだ涼芽が幼い時にお医者様から宣告を受けてたの。あの子の心臓は身体の成長に耐え切れないだろうって。その時は中学生になるまでは生きられないだろうって言われてた。でも何とか今まで頑張ってこれた。これからは、あとどれくらい生きられるか・・・・・」

たんたんと話をするお母さんに困惑する。

現実として素直に頭に入ってくる内容ではなかったので気持ちの整理に時間がかかっていた。

「この前の検査では予想以上に心臓に負担がかかってきているのが分かって、もう手術が必要だって先生に言われたの」

「手術するれば治るんですか? 治るんでしょ?」

お母さんはゆっくりと首を横に振った。

「心臓の弁膜の手術はとっても難しいの。成功率はかなり低いらしくてね。だから手術する決断がなかなかできなかった・・・・・。もし失敗したらって考えちゃって」

「あの・・・もし、手術をしなかったら、どうなるんですか?」

お母さんはまたしばらく黙って俯いた。

「このままだと、いつ大きな発作が起きるか分からない。あの子の心臓は遅かれ早かれダメになる。だからもう手術するしかないの。来るべき時が来たってことかしらね」

彼女の心臓がダメになる・・・・・?