「これ・・・ですか?」
「涼芽も同じもの持ってるわね。もしかして一緒に買ったの? あの子もすごく大切にしてたわ」

 ――え?

嬉しかった。
こんなもの、もうてっきり忘れられてると思っていた。

「やっぱりそうだったのね・・・・・」
「え?」 

何がそうだったのだろうか?
お母さんの言っていることも彼女に負けずに分からないことが多い。

ウエイトレスが注文したハーブティーを僕の前に置いた。
僕はそのカップをゆっくりと口へと運んだ。

緊張のせいで喉が乾いていたせいだろうか、僕はハーブティを一気に飲みほした。
ハーブティーの熱さが喉に染みた。

「冴木君、あなたにお願いがあるの」
「お願い・・・ですか?」

改まったその言葉にちょっと驚いて身構える。

「これからもあの子の・・・涼芽のそばにいてあげてくれる?」

あまりにも想定外の言葉だった。

僕はもう彼女に会わないと決めたし、大体、僕は彼女にフラれているのだ。
お母さんはきっとそのことを知らないんだろう。

「すいません。僕はもう彼女には会えないんです」
「ごめんなさい。この前は二度と会うなとか言っておいて、勝手な話だとは分かってるの。でもお願いしたいの」

「すいません。そういうことじゃないんです」

お母さんは不思議そうな顔で僕を見つめた。
僕はお母さんに今までの彼女とのことを話した。

彼女が僕の告白を手伝ってくれたこと。

初めてのデートで途方に暮れていた僕に、デートの練習に付き合ってくれたこと。

そして、彼女に告白してフラれたこと・・・・・。

お母さんはずっと黙ったまま僕の話を聞いてくれていた。

「だから、僕が行くと彼女は迷惑がると思います」

お母さんは俯いたまましばらく考え込んでいた。
僕は残っていたハーブティーをゆっくりとすすった。

「冴木君。あなた、涼芽のこと、好き?」

余りにも唐突な質問に口に含んでいたハーブティーを吹き出しそうになる。

「好きです・・・・・」

慌てた分、僕は素直に答えてしまった。

お母さんはホッとしたように口を緩めて静かに微笑んだ。

「よかった。涼芽もあなたにとても逢いたがってる・・・・・」
「え?」

そんなはずはないだろう。
僕のお母さんの言葉を素直に受け入れられなかった。