彼女のお見舞いに行った日からあっという間にひと月が経とうとしていた。
新学期が始まってから彼女は一度も学校に来ていない。

彼女のことは忘れようと思ってはいたが、やっぱり気になった。 

病気、良くないのだろうか?
そんなに長い入院ではないと聞いていたので、不安な気持ちが膨らみ始めていた。

そんなある日、携帯の呼び出し音が鳴った。
音声通話の呼び出しは珍しいので、その音に思わずびっくりしてしまった。

誰からだろう、と携帯に表示された文字を見た。
僕は思わず動揺する。
画面には携帯を新しくしてから初めて彼女の名前が表示されていたのだ。

 ――え? 彼女から?

僕は嬉しさで慌てながら受信ボタンを押した。
しかし、携帯から聞こえてきた声は彼女のものではなかった。

僕は約束の時間よりも一時間ほど前に待ち合わせ場所に指定されたカフェに来た。
店のドアを開け、店内に入ると迎えのウエイターから人数を訊かれる。
待ち合わせであることを場慣れしない口調でたどたどしく伝えていると、店の奥で手を挙げてこちらに合図する女性を見つけた。
電話をくれた彼女のお母さんだ。

前に会った時も思ったが、とても綺麗な人だ。
彼女はやはりお母さん似だ。

まさか、先に来ているとは思わなかった僕は虚を突かれ、心を落ち着かせる時間を失った。

「すいません。お待たせしてしまって」
「何を言ってるの。まだ待ち合わせ時間の一時間も前よ。読みたい本があったから早めに来て読んでいたの」

お母さんはここに座ってと誘導するように向かい側の椅子に手を差し向けた。

「久しぶりね、冴木君。何飲む? ここのハーブディーはお勧めなの。ケーキもなかなかよ」

程なくウエイトレスがやってきて、僕はお母さんが勧めてくれたハーブティーを頼んだ。

ウエイトレスが席を離れたあと、しばらく沈黙が続いた。
重苦しい雰囲気に苦しくなる。
何か喋らないと・・・そう思いながらどんどんと焦りが加速する。

「あの、あの時は・・・葵さんを学校から連れ出してしまって本当にすいませんでした」

今、僕からできる会話は謝ることだけだった。

「ごめんなさい、冴木君。そのことで謝るのは私たちのほうだったのね」

お母さんの予想外の言葉に僕は戸惑った。

「あの日、学校抜け出して外に行こうって言い出したのは涼芽のでしょ」
「え?」