女子生徒が僕に声を掛けた。

「ごめん。僕、先に帰るね」

そう言って僕は逃げるように出口へと向かった。
心底自分が嫌になる。

彼女が誰と付き合おうと自由じゃないか。
僕はフラれたのだから関係ない。
吹っ切れたはずだったのに、いまだに未練がましく考えてしまう自分に余計に腹が立った。

病院を出ると、駅へと向かうバスがちょうど出発しようとしていた。
僕は慌ててそのバスに飛び乗った。
少しでも早くこの場所を離れたかったのかもしれない。

「あ――こんにちは・・・」

彼女はすぐ僕に気づいたようだったが、さっと目を逸らした。

 ――あれ?

「あの・・・こんにちは」

僕はもう一度恐る恐ると声を掛ける。

「あれ? 帰ってきたの?」

皮肉いっぱいの挨拶が帰ってきた。
君が呼んだんでしょ、と言いたかったが、そんな雰囲気ではなかった。

「久しぶりだね・・・」

僕は彼女のお惚けに合わせるように振る舞う。

「さっき会ったばかりでしょ」

見事に冷たく返された。

「ハハ、そうだったね・・・」

わざとらしい愛想笑いがさらに部屋の中の空気を重くする。
僕はその異様な空気に押し潰されそうになる。

「なんで帰っちゃうのよ」

今度は睨みながら直球を投げ込んできた。

「さよなら言ったよね?」

 探るように訊く。

みんな(・・・)にしか言ってない」

みんな(・・・)に言ったんだよね?」

「君はみんな(・・・)に入ってないの」

彼女の口調がだんだんと強くなる。
正直、意味が分からなかった。

「あの、どうして怒ってるの?」
「何で私が怒んなきゃいけないの?」

さらに口調が強くなる。
どう見ても怒っている。

大体、僕はどういう立場でここにいるのだろうか? 
彼女と僕の関係って何なのだろう?

友達? でも一回フラれてるから、ある意味友達以下かも・・・。
でも、それならどうして僕を呼び戻したんだ?

「葵さん、本当は寂しいんでしょ?」

僕の問いに彼女が睨むようにこちらを見つめた。

「だったらどうして、もうお見舞いに来なくていい、なんてみんなに言ったのさ?」

彼女は思いつめたように黙って俯いた。

「だって、友達には病気の姿とか、あんまり見せたくないしさ・・・・」

 ――友達・・・?

「あっ、ちなみに君は私の友達リストから除名されてるから」