それは無理もないことだとは分かってはいるが、あからさまに目を避けられるとやっぱり落ち込んだ。

病室内に賑やかに会話が弾む。
そういえば僕はクラスメイトと喋る普段の彼女をほとんど見たことが無かった。
とても楽しそうに笑いながらお喋りをしていて、まさに天真爛漫な女の子といった感じだ。

でもなぜだろう?
彼女のその笑顔に妙な違和感を持った。
僕といる時とは何かが違う、別の彼女がいるような、そんな感じがした。

僕自身はとりわけ喋ることも無く、ずっと病室の後ろでみんなの会話を聞いていた。
彼女も僕のほうを向いたり、話し掛けてくることもなかった。

少し淋しい気がしたが、とても楽しそうに笑っている彼女を見て、僕はホッとしていた。
思ったより元気そうでよかった。
僕は心底そう思った。

僕にはここに来たのにはひとつ目的があった。
彼女に謝りたかったんだ。
もう一度だけ謝りたい。お礼を言いたい。

でも僕は会話の中に入れず、黙ってみんなを見ているだけしかできなかった。

「あんまり長居しても迷惑になるから、そろそろ行こうか」

女子生徒の一人が言った。

 ――え? もう?

僕は焦った。

「えー、もう帰っちゃうの? 寂しいな」

彼女もとても名残惜しそうだ。

「退院したらまたみんなで遊びに行こうよ。映画とかショッピングセンターとか」

もうひとりの女子生徒が言った。

僕は何とか一声だけでも掛けようと前へ出ようとした瞬間だった。

「あの・・また、来てもいいかな?」

そう言い出したのは武田君だ。

 ――え?

彼女はちょっと戸惑った顔をしたあと、しばらく黙っていた。

「ありがとう。でもそんな長い入院になるわけじゃないし、大丈夫だよ。みんなも受験で忙しくなるし、私の病気もそんな大袈裟なもんじゃないから」

彼女がそう言うと武田君は少し寂しそうな顔をしながら俯いた。
でもすぐにスッと笑いながら顔を上げた。

「そうだな。退院したらまたみんなで遊びに行こう」

僕は気持ちは妙に複雑だった。

「じゃあね。みんな、今日は来てくれてありがとね」

彼女が胸元で小さく手を振りながらみんなに笑顔でさよならを言う。

でもこのままではなんのために来たのか分からない。
せめてさよならだけでも一言おうと思い、彼女に話し掛けるタイミングを計った。