徐々に彼女の息遣いが荒くなってくる。
僕は焦った。
胸のあたりがかなり苦しそうだ。

「ドジだな、私。薬・・・・学校のカバンの中だ・・・・」

え? 薬って、まさか心臓か何か?

目の前で人が苦しんでいるなんて生まれて初めてのことで、僕は頭の中が真っ白になった。

どうしよう・・・・どうしよう・・・・。

頭の中で同じ言葉が反芻される。
もう彼女は喋ることができないくらい苦しい状態だった。

もうだめだ。何とかしないと。そうだ救急車だ!

僕は携帯を慌てて掴んだ。しかし携帯の電源が入らない。
どうやら海に落とした時に壊れてしまったようだ。

 ――役立たずめ!

僕は携帯をベッドに投げつけた。
僕はさらに頭の中がさらにパニック状態に陥る。


そうだ、部屋の電話だ!
僕はベッドの脇にある電話の受話器を取った。

フロントの人に事情を話し、すぐに救急車のお願いをした。
僕はもう何がなんだか分からなくなっていた。

このあとの出来事については、僕は気が動転していて断片的にしか記憶が無い。

憶えているのは、救急車が来た時、ホテルの前に人だかりができていたこと。
僕は彼女と一緒に救急車に乗ったこと。
救命士さんから彼女の家への連絡先を聞かれたが、僕は答えられなかったこと。
彼女が苦しみながらも自宅の連絡先を伝えたこと。
そのあとは・・・・よく覚えていない・・・・。

気がつくと僕は病院の集中治療室の前に座っていた。
そうだ。僕と彼女は救急車で病院へ運ばれたんだ。

僕は彼女の身に何が起きたのか全く状況が理解できていなかった。

横には中年の男性と女性が心配そうな顔で座っている。
頭の中はまだ混乱していた。

思い出した。
彼女のお父さんとお母さんだ。
病院からの連絡でここへ駆けつけたのだ。

誰も喋ることは無く、静寂が続いていた。

しばらくすると集中治療室から医師が出てきて、彼女の容態がなんとか落ちついたということを伝えられた。

僕は安堵の気持ちを抑えられなかった。

ホテル内でのことだったので事件性を懸念したのか、僕はこのあと警察の事情聴取を受けた。
恐らくホテルのフロントのおばさんが連絡したのだろう。

事件性は無いと分かり、警察からの尋問は形式的なものだけで、僕はすぐに解放された。

ただ、このあとの彼女の両親からの尋問がすごかった。