そして彼女の訴えが効いたのか、その恐い魔女のような顔が一瞬に呆れたような顔になり、そのあとフッと穏やかな顔に変わった。

「そういうこと。じゃあ、今回は特別よ」
「え? 本当ですか?」

魔女に見えたおばさんの姿が天使に変わった。


「でも今日は週末で混んでいて満室なの。でも一番大きい部屋でよければ今清掃中なの。もう少しで準備できるけど待てる? あと部屋のお値段も少し高くなるけど大丈夫?」
「はい、入れていただけたらどこでもいいです」

「じゃあ、清掃を急がせるわね。待合室で少し待っててくれる?」
「ありがとうございます」

彼女は深々とお辞儀をした。
おばさんは僕達を親切に待合室まで案内してくれた。

待合室といっても小さなソファがあるだけの狭いコーナーだ。
僕たちはそのソファに並んで座った。

ソファはとても小さく、嫌でも体が密着する。
すぐ横にいる彼女の吐息が聞こえるようだ。
自分の鼓動がはち切れんばかりに大きく脈打つ。

まずい! 落ち着け、落ち着け心臓!
僕は心の中で願うように叫んだ。

しばらくの時間、僕にとって辛い時間が続く。
辛いのは寒さではない。
いや、寒さなんて感覚、もうどこかへ飛んでいた。

濡れた服が彼女との体の密着感をさらに増幅させ、それに僕の体は素直に、そして激しく反応し始めたのだ。
鼓動はさらに大きくなった。

なんだこれ? 
僕の体はどうしちゃったのだろうか?

「寒い? ハルくん」
「あ、ごめん。大丈夫だよ」

彼女が僕の顔を覗き込む。

「やだハルくん、顔、真っ赤だよ! もしかして熱、出ちゃった?」

びっくりした顔で彼女が叫んだ。

「い、いや・・・・これは熱って言うか・・・・あの・・・とにかく大丈夫だから・・・・」

僕は慌てて誤魔化そうとするが、言い訳の言葉のひとつも出て来ない。
その時、僕の服の濡れによって彼女の服まで水が染みているのに気づいた。

マズい! 彼女の服が濡れちゃう。

「あ、ごめんね。冷たいよね」

僕が体を離そうと立ち上がろうとした時、彼女の手が僕の腕を抑えるようにギュっと掴んだ。

 ――え?

「大丈夫。私は平気だから」
「だって、葵さんの服が濡れちゃうよ」
「その分、君の服が早く乾くでしょ」

彼女はさらりと笑いながら答えた。

「でも、それじゃ・・・・」