僕は今、女の子に手を引っ張られながらホテルへと続く通路を歩いている。

何だろう、この感覚は。
誰もいないのに妙に後ろが気になった。
これが後ろめたさと言うものなのだろうか。

僕は先程までとは異なった罪悪感に包まれていた。
いや、果たしてこれは罪悪感なのだろうか?

不安、緊張、変な期待? 

いろいろな気持ちが交錯しながら、心臓がバクバクと大きな鼓動を上げ始めた。

細い通路を抜けると薄暗い自動扉があり、妙な機械音と共にその扉が開いた。
中に入ると迷路のような細い廊下があり、その先にフロントらしきところがあったが、人はいなかった。
壁に部屋の写真が表示されている大きなパネルが掛かっているだけだ。

僕はどうすればいいのか全く分からず、ただオロオロとする。

「ハルくん、どうやって入ればいいのか分かる? このボタン押すのかな?」

困った顔をしながら小声で囁いた。
どうやら彼女も初めてのようだ。

僕は黙ったまま固まっていた。
その時、フロントの脇にある鉄製のドアがガチャリという大きな音を響かせながら開いた。

僕達はその音にビクッとなり、さらに固まった。

ドアの中から中年のがっしりと太った見覚えのあるおばさんが出てきた。

「え? アースラ?」

思わず僕は叫んだ。

そのおばさんはジロッと僕たちを見た。

「バカね。用務員《アースラ》がここにいるわけないでしょ」

彼女が僕の耳元で囁く。
確かによく見ると別人だった。 

でも驚くほど似ている。
やっぱり魔女のようだ。

そのおばさんは睨むように僕達の姿を見まわした。
何やらまずい雰囲気が漂い始める。

「あなたたち、高校生でしょ。ダメよ、高校生は入れないわよ!」

そういえば僕たちはあからさまな制服姿だった。
そりゃダメだろう。

僕は諦めて戻ろうとした。でも、彼女は帰ろうとしなかった。

「すいません。この人、海に落っこちちゃって。シャワーと、あと服を着替えるだけでいいんです。入れてもらえませんか?」

彼女は今にも泣きそうな顔になりながら懸命に事情を説明した。

「もういいよ、葵さん。僕、大丈夫だから帰ろう」
「全然大丈夫じゃないでしょ!」

それを聞いていたおばさんは、僕のズブ濡れになった姿をもう一度じっと見まわした。