「ここね、中学の時に一度だけ家族で来たことがあるんだ。その時に、またいつかここに来たいって思ったの。好きな人と・・・・」
「ふーん」

この言葉、何か意味があるのだろうか?

一瞬、彼女が僕を睨んだ気がした。

長く延びる海岸線に沿って白い波がキラキラと輝いている。

「あそこに見える浜辺で夏に花火大会があるんだよ」
「へえ・・・」

僕は中途半端に生返事をした。

「行きたいな・・・」

彼女はボソリと呟くように言った。

「花火、好きなの?」

彼女は大きくため息をつく。

「花火大会の夜って言えば男女の恋が燃え上がりの定番でしょ?」
「・・・ごめん」

何が悪いのか分からないが僕は謝った。

「でも、また来ればいいじゃない? 夏に・・・」
「そうだね・・・」

彼女の顔が少し寂しそうに見えた。

何か変なこと言ってしまったのだろうか。


でも、そもそも今日はなぜ僕を誘ったのだろうか? 
学校を一緒にサボる仲間が欲しかっただけなのだろうか?

「あのさ。ひとつ訊いていい?」
「なあに?」

「今日、どうして僕を誘ったの?」
「あ、ごねんね。授業さぼらせちゃったね・・・・」
「そんなこと言ってるんじゃないよ。一緒だったら誰でもよかったの?」

彼女はすっと目を逸らし、遠く水平線のほうを見つめていた。

「違うよ。君と一緒に来たかったんだ」

それ以上何も言わなかった。
ますます分からなくなる。

「でも・・・僕のこと・・・好きじゃないんだよね・・・」

僕は何を言っているのだろう。
口に出してしまったあと、すぐに後悔した。

「私、そんなこと一度でも言った?」

 ――え?

彼女の言葉より、その悲しげな表情に僕は困惑した。
どうしてそんな顔をするんだろう?

「わー、見て見て! すっごい綺麗!」

遠くに広がる水平線を見ながらはしゃぐように彼女が叫んだ。
さっきの悲しい表情が嘘のように明るく笑っていた。

やっぱり女の子の考えていることはさっぱり分からない。

どうして彼女の笑顔はこんなに輝いて見えるのだろうか?

確かに彼女は可愛いとは思うが、この笑顔の輝きには何か別のものを感じていた。

「あー、今、私に見惚れてたでしょ?」

 ――え?

鋭い突っ込みに僕は固まった。
本当に僕は見惚れていたのだ。