しばらく沈黙の時が過ぎた。

そうか。僕は自分が一方的に想っているだけならいいと思っていた。
でも、どうやらそれだけでも彼女には迷惑だったようだ。

「ごめん、分かった。それも迷惑だったね」

僕はそう言って階段を降り始めた。
精一杯、自分の感情を抑え込んだ。
辛かったが仕方ないことだ。

「待って!」

 ――え?

「あのさ、二人で学校抜け出さない?」

彼女がぽつりと呟いた。
その言葉に僕の体は固まった。

「あの……今から?」

彼女は優しく微笑みながらゆっくりと頷いた。


気がつくと僕は彼女と一緒に駅の改札口にいた。

僕はここでふと現実に還る。

「ねえ、学校サボるのはやっぱりマズいんじゃない? 今からでも学校に戻ろうよ。まだ三時限目なら間に合うよ」

僕の中の“真面目”な小心者がひょっこりと顔を出し始めた
通常のレール”から外れそうになると、僕の体内にあるセンサーがアレルギーのように拒絶反応を起こすのだ。

「ふん、いいよ。もう分かった。真面目くんは学校に戻んなさい。私一人で行くから」

彼女はウジウジしている僕に呆れたようにそう言い残すと、そのまま改札口を抜けて行った。
自動改札の電子音の響きが『意気地なし!』と叫んでいるように聞こえた。
僕はしばらく動けなくなり、買い物客と数人の学生が僕の前を通り過ぎるのをぼーっと見ていた。相変わらずの真面目さと臆病さに自己嫌悪に陥いる。

 ――ええい!

そう心の中で叫んで慌てて彼女を追って改札口を抜ける。
自動改札の電子音の響きが、今度は『がんばれ!』と応援しているように聞こえた。

この時の僕は何も考えていなかった。
いや、考えることを止めた。

学校も成績も内申書も、もう関係ない。

階段を駆け上がりプラットホームへ出る。
あたりを見回し彼女を捜す。
ホームの前のほうに立っていた彼女を見つけるとほぼ同時に彼女も僕に気づいた。

「帰っちゃったかと思った……」

彼女は照れたような顔をしながら優しく微笑んだ。

電車がゆっくりとホームに入ってくる。
目の前のホームドアが開くと、電車に中から数人の乗客が降りてきた。

降りる乗客がいなくなったあと、ホームで待っていた人が電車に乗り始める。
しかしなぜか彼女は動かなかった。

「どうしたの?」

彼女は下に俯いたまま黙っていた。