翌日の金曜日。

久しぶりに真っ青な空に太陽が眩しく輝いていた。

僕の心とは正反対の天気。明日は終業式。
二年の正規の授業は今日の午前中で最後になる。

葵さん、どうしてるのかな……。

気がつくと彼女のことが頭に浮かんでいた。

フラれたんだから、もう忘れないといけない。
そう思えば思うほど彼女への気持ちが膨らんだ。

今日の二時限目の授業は数学だ。
けれども担当の先生がなかなか来る気配が無い。

授業開始チャイムから五分ほどたったころ、なぜか学年主任の先生がやって来きた。
数学の先生が急用により来れないので自習となるとの説明がされる。

教室内は決勝ゴールが決まったかのように歓声が上がった。
自習といっても、それはほぼ自由な休み時間のようなものだったからだ。

生徒はみんなグループで雑談やゲームを始めた。

僕は広げていた数学の教科書をしばらくぼーっと眺めていた。

僕は教科書を閉じて立ち上がった。
そして何かに導かれるようにそのまま教室の出口へと向かっていた。

廊下を歩いている僕は無心だった。
僕は何をしているのだろう?
僕はどこへ行くんだ? 

自習とはいえ、本来勝手に教室を出てはいけない。
僕の真面目心が教室へ戻れと叫ぶ。でも足は止まらなかった。

気がつくと僕は屋上にいた。まるで引き寄せられるように。

いつにも増した真っ青な空が広がっていた。
眩しい日差しが教室を抜け出したという罪悪感を消し去る。

僕は彼女が屋上(ここ)にいるような気がしてならなかった。
全く根拠の無い自惚れた確信だった。

息を切らしながら一気にペントハウスの階段を昇る。
給水塔の鍵の掛けられた扉の前で思わず立ち止まる。

そうだ。もうここは鍵が掛けられて入れないんだった。
人気(ひとけ)のないの給水塔のまわりをゆっくりと見回した。

やっぱり誰もいない。
そりゃそうだ。いるわけない。
大体、彼女は学校を休んでいるんだった。

勝手に想いに酔いしれていた自分の滑稽さに思いっきり苦笑した。

鍵のかかった扉に足を掛けて飛び越えて中に入る。
ちょっと罪悪感があったが、それが微妙に心地よかった。

やっぱりここからの景色は格別だ。
街道沿いの桜並木が薄いピンク色に染り始めていた。

ああ、なんか青春してるって感じだ……なんて自己陶酔している自分に呆れる。