僕はすぐに彼女の姿を捜した。

できるだけ自然に挨拶をしよう、そう思っていた。
しかし、彼女の姿は見当たらない。
休み時間なのでどこか別の教室に行っているのだろうか。

授業が始まっても彼女は姿を現すことはなかった。
どうやら今日は欠席らしい。

翌日の木曜日、朝から小雨が降り続いていた。
昼休みの時間になったが、雨は止まなかった。
今日は屋上に行くことはできなさそうだ。

僕は彼女のことが気になり、A組の教室を覗いた。 
彼女の席には誰も座っていない。

やっぱり今日も休みなのだろうか。
僕の心の中にあった不安感がだんだんと膨らみ始める。

「冴木君?」

聞き覚えのある女の子の声が聞こえた。
振り返ると後ろに麻生さんが立っていた。

心の準備ができていなかったため、ちょっと焦った。

「誰かに用事?」
「あ……ごめん。誰にも用は……」

馬鹿か僕は。用事も無いのに別の教室に来るわけないだろうに。

窓から聞こえる雨の音が激しくなってきた。

「雨、凄いね……」
麻生さんが外を見ながら呟くように言った。

「うん……」
僕の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。

「もしかしてスズメちゃんのこと、捜してた?」
「いや……違うよ」
鋭い質問に僕は目いっぱいに平然を装った。

「スズメちゃん、このところずっと休んでるよ」
「え? ど、どうして?」

思わず顔が引きつった。

「やっぱりズズメちゃんのこと、捜してたんだ」

麻生さんはくすっと笑いながら上目使いで僕を見た。

バレバレだ。

「ご……ごめん」
「別に謝ることないけど……」

「風邪か、何かなの?」
「ううん。先生は詳しいことは言わないけど、三学期中はもう来られないようなこと言ってたよ」

 ――え?

僕は愕然とした。

「気になるなら、先生に詳しいこと訊いてあげようか?」
「あ、ごめんね。大丈夫。ありがとう。本当にごめんね」

僕は何度も頭を下げながら逃げるように教室を後にした。

窓の外を見ると雨雲で夜のように暗くなっていた。
僕のまわりが全て暗くなった感じがした。

どういうことだろう。風邪じゃないのか? 
この前会った時は、そんな具合が悪いようには見えなかったけど。

心の中から異様な不安感が込み上げてくる。

三学期の授業は今週で終わりだ。