よく考えたら僕のことを好きだったら僕の恋の手伝いをするわけがないんだ。
簡単にわかることだった。
おめでたい自分に呆れながら苦笑する。

しかし、フラれたにしても、何か言葉を返せばよかったと後悔の思いが沸いた。

決してカッコをつけたかった訳ではないがお礼の一言でも言いたかった。

そうだ。今度、彼女に会ったら明るく挨拶をしよう。
そして『今までありがとう』とお礼を言おう。

 ――ちょっと待てよ。

ずっと心の奥に引っかかっていた疑問が沸き上がる。 

そもそもどうして彼女は僕の恋の手伝いをしてくれたんだ? 

彼女とはクラスメートでもない。
まして知り合いでもなかった。

あの告白をした日、彼女は僕に掛け声をかけてくれた。
グズグズしていた僕の告白を後押ししてくれたんだ。

でも、どうしてそんなことしてくれたんだろう? 
理由が見当たらない。

もしかして、僕のことをひそかに想っていたとか?
いや、だったらなおさらのこと、僕の後押しなんかをするはずがない。

ひたすら悩んだが答えは見つからなかった。

間違いないことは、僕が彼女にフラれたという事実だ。


翌日の火曜日の昼休み、空はどんよりと曇り、時折に肌寒い風が吹いていた。

僕はなるべく目立たないように屋上の隅のほうで小説を書いていた。

ペントハウスの上はあれから鍵がしっかりと掛けられ、一般の生徒は入れないようになっていた。

残念だが仕方がない。
元々立ち入り禁止の場所だったのだから。

入れないのが分かっているのに屋上に来たのは、彼女に会えるのではないかとの僕は期待しているのだろうか。

別に彼女に未練がある訳ではない。
ただ、もう一度会って、お礼を言いたかった。

次に会う時は何事も無かったように明るく挨拶をしようと決めていた。

僕に後ろめたさを感じさせても申し訳ないし、自分は大丈夫だということを伝えたかったし。
そう、以前のような友達としての仲に戻りたい、そう思っていた。

でもその日は葵さんに会うことはできなかった。

結局、僕は麻生さんと付き合うことも止めることにした。

葵さんにフラれたから麻生さんというわけにはいかないだろう。
それは麻生さんにも失礼なことだ。

翌日の水曜日、朝一の一時限目にA組と合同の美術の時間があった。

葵さんに会えるかもしれない。
そんな想いで教室に入る。