だから僕と麻生さんを付き合せようとする彼女の言葉に怒りを感じてしまった。

しばらく彼女は俯いたまま何も喋らなかった。

「あの……僕と付き合って欲しい」

言った。
でも彼女は黙ったまま何も答えてくれなかった。

彼女の顔を見た。

何か思いつめた表情をしている。
困惑している様子が嫌でも伝わった。

彼女から出てくる言葉を待つ。
鼓動が激しく脈打つ音が聞こえる。
にも破裂しそうな勢いだ。

その沈黙の時間が異様に長く感じていた。

「ごめん……」

彼女は小さく呟くように言った。

「え?」

「ごめんね。私、君とは……付き合えないよ」

頭がクラッとして目の前が真っ暗になった。

「わかった……」

僕はその一言だけを懸命に絞り出し、その場を立ち去った。

 ――やっぱり告白なんかするんじゃなかった。

心の中で叫んだ。

葵さんにフラれた。

気がつくと僕は屋上のペントハウスの上で外の風景を眺めていた。
ここに来るのは久しぶりだった。

「はああ……」

思わず大きくため息をつく。
自分が情けなくて仕方なかった。

フラれたことではない。
後悔はしないって決めたのに、告白なんてするんじゃなかった、なんて女々しく思ってしまったことだ。

『やるだけやってダメならしようがないじゃない。やらないほうが絶対に後悔するよ』

彼女に言われた言葉が頭を過った。
その時、体の力がフッと抜けたような感じがした。

そうだ。自分の気持ちをはっきりぶつけられたんだ。
後悔する必要なんてないんだ。

そう思うと心がだんだんと晴れやかになっていった。

なんと皮肉なことだろうか。
彼女にフラれた悲しさが彼女の言葉によって癒された。

僕の心の中のモヤモヤがだんだんと晴れてくるのを感じた。
フラれたという悲しさより自分の気持ちを伝えられたという満足感が上回ったのか。
その勇気を出せた自分が妙に嬉しかった。

彼女は僕に勇気をくれた。

やるだけやってダメなら仕方ない。
その彼女の言葉通りだった。

僕はフラれてはしまったけど、彼女を好きになったことは間違いではなかった。

結局、僕は思い上がっていたんだ。
彼女はいつも僕のことを気にかけてくれていた。
だから僕に好意を持ってくれているではないかと勘違いしていたんだ。