友達とはいえ、せっかく付き合うように声を掛けたのに。

「菜美ちゃんに今度会ったら、しっかりと好きだって言うんだよ」

 ――え?

「友達になって、としかまだ言ってないでしょ。今度はちゃんと好きだって言いなよ」
 そんなこと言えないよ。まだ友達になったばかりだし、一回しか会ってないし」

「フラれるのが怖いの?」
「そりゃあ、怖い・・・・・かな」

「分かるよ。でも大丈夫だよ。結果なんて考えなくていいの」
「え?」

「自分の気持ちを思いきり伝えればいいんだよ」
「僕、葵さんみたいにはなれないよ」
「何もしないほうが絶対に後悔するから。やるだけやったらたとえ失敗したって後悔しないよ」

いかにも葵さんらしい言葉だった。

「そうだ、リハーサルする?」
「いいよ、もうリハーサルは・・・・・」
「そっか。私でよかったらいつでも付き合うよ、リハーサル」

彼女はそう言ってまたニコリと笑った。

その包み込むような優しい笑顔に僕はなぜか戸惑った。


昼休み終了のチャイムが響く。

彼女の話に夢中になり、時間を忘れていた。
僕は午後の授業へと足早に向かった。

教室に戻る廊下の前方から男子生徒がこちらに向かって歩いてきた。
その彼は僕と同じライン上を歩いている。

このまま行くとぶつかってしまいそうだったので僕は右側に避けるように歩いた。
すると、その男子も僕と同じ方向に向かってきた。

そして、その男子は僕の行く手を塞ぐように目の前で立ち止まった。

何? 僕、何かした? 別にガン見とかしてないし・・・・・。
僕は下に向けていた自分の目線を恐る恐るその男子の顔に向けた。

「あのさ、お前、ズズメのこと、好きなのか?」

 ――え?

あまりにも唐突に突きつけられた質問は僕を硬直させた。
クラスメートではなかった。

けっこうイケメンで、遊んでそうな・・・・・そう僕とは真逆のいわゆる『アクティブタイプ』の男子だ。

クラスは違うが見覚えがある。
そうだ、A組の生徒だ。
共同の美術の授業で見たことがある。

「スズメって葵さんのこと?」
「そうだよ。最近よくスズメと一緒にいるだろ?」

屋上で彼女と一緒にいたのを見ていたのだろうか。
でもどうして僕にそんなことを言うのだろう?

「かわいそうだから教えといてやるよ。あいつには気をつけな」

 ――え?