男の子だから――というのは男女差別的発言になるのではないだろうか。

「ノート……です」
「ノート? 何が書いてあるの?」
「いや……何って……」
「え?」

また言葉に詰まった。自分で書いた小説だなんて言える訳がない。

「イライラするわね。はっきり言いなさい」

「あの、表紙にアルファベットでHARUって書いてあるノート……」
「ハルう?」

アースラはちょっと怪訝そうな顔をしながら奥の棚へ向かい、そのガラス扉をガラガラと乱暴な音を立てながら開けた。

「これ……かしら?」

使い古された見慣れたノートを持ってきた。
間違いなくそれは僕のハルノートだった。

それを見たとたん、僕はどっと胸を撫で下ろした。

「よかった! これです!」 

大きく安堵しながら差し出されたノートに手を伸ばすと、アースラはそれをサッと後ろへと引いた。

 ――え? 何?

「一応、本人確認をするので、このノートの中に何が書いてあるか言ってくれる?」

この瞬間、アースラが黒服を身にまとった極悪の魔女に見えた。

HARUって文字が合ってるんだからいいと思うのだが。

そもそも中身確認が必要なのか?
サイフじゃあるまいし。

確認するとなれば中を見られてしまう。
いっそ僕の物ではなく借り物とでも言おうか……。

「君、何ブツブツ言ってるの?」
「あの・・・すいません。ただの落書き帳なんですけど……」

誤魔化すにしても、もう少し気の利いたセリフが言えないものだろうか。僕の言語能力の貧困さに呆れる。

それを聞いたアースラはククっと薄ら笑いながら僕の顔を上目で見た。
コイツ、中を見たな……。

「まあいいか。確かに落書きが書いてあったかな……」

そう言うとアースラは僕にハルノートを手渡してくれた。

アースラに中を見られたと思うと急に恥ずかしくなり顔が熱くなった。
顔から火が出るように恥ずかしいというのはこういうことなのだろう。

「この台帳にクラスと名前を書いて。出席番号もね」
「はい」

僕は仕方がないなと諦め顔で頷いた。

「あのお?」
「何、まだ何かあるの?」

アースラは怪訝そうに僕を見る。
そんな怖い顔をしなくてもいいじゃないかと思う。

「あの……このノート……どこに落ちてたんですか?」